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- 専務理事 大石人士
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歴史的危機をバネに 一段と進化した社会へ
時代の転換点となるような大きな危機に直面した時、私たちはそれを乗り越えるために、新しい生活様式を模索し、事業構造の変革に挑み、その実現に向け一丸となって技術開発に注力する──そんな危機対応の歴史を繰り返してきたように思う。
現在、コロナ禍にあって、感染拡大防止のための活動自粛と経済再生との両立の道はいまだ見出せていないが、歴史的危機を振り返ると、第1 次オイル・ショック(1973 年)の時も、原油供給不安から総需要抑制策と経済活動維持とはざ間ま で、次なる成長を生み出すまでの苦しみを味わった。
「街のネオンサインの早期消灯」「テレビの深夜放送の休止」「ガソリンスタンドの日曜日休業」「駅やオフィスの照明の間引き」等々の光景が見られ、家庭では「こまめに電気を消しましょう」「車での遠出は控えましょう」と積極的に省エネに協力した。まさに"自粛型の生活様式"である。
第1 次オイル・ショックは、「トイレットペーパー騒動」や「洗剤パニック」といった買い占め騒ぎが話題として残っているが、より重要な点は、石油に大きく依存して成し遂げた「日本の高度経済成長」の終焉(しゅうえん)であり(1974年度の日本経済は戦後初のマイナス成長)、生活者の視点からみれば「使い捨て消費から節約消費への転換」、技術開発の視点からは「省エネ・省資源時代の到来」を告げる歴史的危機だったことである。
以後、家電メーカーは省エネ性能の高い「効率家電」、自動車メーカーは環境対応の排出ガス規制と併せて「低燃費車」の開発へと進んだ。資源小国の日本において、エネルギーコストは高いものであるという認識が、経済界だけでなく一般家庭にも浸透し、私たちの生活やビジネスを「節約・効率」志向に向かわせた。そして日本の製造業は省エネ技術の開発に邁進(まいしん)し、結果として、産業構造の転換という痛みを伴いながら「省エネ先進国」を作り上げたのである。
今回の新型コロナ感染症拡大の影響を、その経済的ダメージから過去の経済危機と比較する場合があるが、省エネ要請という成長制約要因をいかに生活様式の変化と技術革新で克服していったかという意味では、オイル・ショックという歴史的危機に一丸となって立ち向かった時代を、いま一度学び直してみる必要があろう。
感染症拡大防止と経済活動維持との両立には、直接「命」に関わる「安全」という制約が伴っており、医療現場や教育現場をはじめ社会全体の在り方が広く問われている。これを克服していくには、私たちが一丸となった知恵と工夫、努力が不可欠である。
「密」を回避する新生活様式はスタートしたばかり。そしてこの新生活様式は、感染症拡大防止という面だけでなく、利便性や効率性、ゆとりといった新たな価値観や思考により、社会を次のステージへと進ませる。今回の歴史的危機をバネに、働き方改革、暮らし方改革、さらには持続可能な社会の実現を目指すSDGsの動きを加速させ、一段と進化した社会に向かうことを期待したい。
投稿者:専務理事 大石人士|投稿日:2020年12月07日|
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