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主席研究員 大石真裕 のコラム

  • 主席研究員 大石真裕
  • No.68

よそ者パワーを活かす「地域おこし協力隊」

 人口減少や高齢化に悩む地方自治体が、地域外から人材を受け入れ、地場産品の開発・販売や農林漁業、住民の生活支援などに従事してもらうことで、地域力の維持・強化を目指す「地域おこし協力隊」。総務省が進める本制度の利用は、平成21年度のスタート以降順調に伸び、27年度には全国の隊員数が2,625人、受入自治体数は673となった。都道府県別の受入隊員数は、北海道が369人と最多で(受入自治体は105市町村)、長野県が222人(53市町村)、島根県が149人(17市町村)と続く。隊員の属性は、男女比が6:4、年齢別では20-30歳代が約8割と、若者が圧倒的に多い。
 静岡県内では、静岡市、浜松市、島田市、藤枝市、伊豆市、牧之原市、南伊豆町、松崎町、西伊豆町の9市町で30人の隊員が活動する。たとえば、静岡市では、井川地域の活性化に向けて地域住民の意向を聴取、これを踏まえて2人の隊員が、観光拠点「南アルプスユネスコエコパーク井川ビジターセンター」の企画運営や、在来作物など地場産品のブランド化、小水力やバイオマス発電の可能性調査などを行っている。また、県内でいち早く取り組んだ松崎町では、地域産業の振興や地域資源の保全・継承などを目的に、現在5人の隊員が「伊豆松崎DE花見舟プロジェクト」や「松崎発なまこ壁と鏝絵を未来へつなごうプロジェクト」を展開する。
 隊員には、特別交付税交付金により月15-20万円の報償費等が支払われる。金銭的インセンティブもあって広がりをみせる地域おこし協力隊だが、隊員の任期は最長3年に限られる。しかし、受け入れた人材には生涯定住してもらうことが、地域の活力を維持・向上させていく上では欠かせない。
 総務省の調べでは、任期が終了した隊員の約6割が同じ地域に定住しているというが、補助金に頼らずとも地域に定住するには、自活する術が必要となる。隊員には任期終了後、ぜひ「よそ者・若者・バカ者」の視点で新事業を興してもらいたい。地域活性化の好事例として知られる島根県海士町では、「いわがき春香」、「島じゃ常識さざえカレー」など、"海士ブランド"のヒット商品が生まれているが、その陰にはI・Uターン者と地域住民との連携がある。
 地域おこし協力隊やその活動をきっかけに移住した若者たちが、周囲を巻き込んで、観光、飲食、物販など多様な分野で地域資源を活用したビジネスを展開、域外の需要を獲得しながら、稼いだ資金を域内に再投資することで、地域の雇用・所得が持続的に生み出される仕組みがつくられていくことを期待したい。

投稿者:主席研究員 大石真裕|投稿日:2016年08月01日|

  • 主席研究員 大石真裕
  • No.61

身近なところにこそ学びがある

 10月、日本はノーベル賞のW受賞に沸いた。そのうちの1人、大村智・北里大学特別栄誉教授は、「寄生虫による感染症に対する新しい治療法の発見」が評価され、生理学・医学賞を受賞した。
 大村教授は、新種の放線菌が寄生虫を麻痺させる抗生物質を出すことを発見、これを元に開発された薬によって、年間3億人もの人が失明から救われているという。この菌は、伊東市のゴルフ場の土から採取されたそうで、身近なところに世の中の問題を解決するヒントが潜んでいたことに驚かされた。
 身近な生物に学ぶ取組みは、産業界でも進んでいる。それは「バイオミメティクス(生物模倣)」と呼ばれ、生物の持つ優れた機能や形状を模倣し、工学・医療分野に応用していこうとするものだ。
 たとえば、500系新幹線の騒音軽減策では、空気抵抗が小さなカワセミのくちばしに似せた先頭形状や、フクロウの羽根の形状を真似たパンタグラフが採用されている。最近では、ハスの葉の表面構造を模した異物が付着しにくい包装材料や、蚊の針を真似た形で痛みを軽くした注射針、マグロの皮膚をヒントに開発された燃料低減効果の高い船底塗料など、多数製品化されている。
 さらには、太陽光と二酸化炭素、水から有機物を作り出す人工光合成技術や、魚とハチの行動をヒントにしたクルマの自動運転技術の開発が進められるなど、ナノテクノロジーの進歩もあってバイオミメティクスは広がりをみせている。
 このように、生物ひとつをとっても、そこから多くの学びが得られている。さらに視野を広げて、身近なものに目を向けてみると、さまざまな課題を解決するヒントが見つかるのではないか。今回のノーベル賞受賞をきっかけに、ちょっとした気付きがイノベーションを起こす最初の1歩となることを実感した。
 そこで思い出すのが、松下幸之助のエッセイ「学ぶ心」だ(下記参照)。何事にも真摯に向き合う姿勢が大切であり、そこで得た知恵や経験を何らかの形で社会に還元することが、自身や地域の成長には必要である。

「学ぶ心」
 学ぶ心さえあれば、万物すべてこれわが師である。
 語らぬ木石、流れる雲、無心の幼児、先輩の厳しい叱責、後輩の純情な忠言、つまりはこの広い宇宙、この人間の長い歴史、どんなに小さいことにでも、どんなに古いことにでも、宇宙の摂理、自然の理法がひそかに脈づいているのである。そしてまた、人間の尊い知恵と体験がにじんでいるのである。
 これらのすべてに学びたい。
松下幸之助箸「道をひらく」(PHP研究所)抜粋

投稿者:主席研究員 大石真裕|投稿日:2015年12月01日|

  • 主席研究員 大石真裕
  • No.50

未来を想像し、事業を創造する

 日本はすでに人口減少局面を迎えており、日本創成会議によれば、2040年までに全国の約半数の市区町村で20―39歳の女性が半減し、消滅する可能性があるという。
 日本とは対照的に、世界人口は増加の一途をたどることが確実視されている。現在72億人を数える世界人口は、アジアやアフリカを中心に今後も増加し、2050年には96億人に達すると、国連では推計する。
 世界人口の増加が何をもたらすのかを考えてみると、第1に食料不足だろう。日本や静岡県にとっては、大きなビジネスチャンスであり、世界市場を見据えて、食関連産業に力を入れていくべきである。
 静岡県において、食料品と飲料を併せた広義の食料品製造業は、事業所数では輸送用機械をしのぎ最も多く、製造品出荷額は電気機械と肩を並べる規模にあり、すそ野の広い中核産業といえる。本県の大きな特徴として、缶詰、レトルト食品、冷凍調理食品、緑茶など、保存性に優れる多様な加工食品が生産されている。保存技術を磨き上げて新製品開発に取り組み、長距離輸送・長期保存に耐えうるロングライフ食品で、世界市場を開拓していくことが期待される。
 一方で、日本が食料危機に陥ることも危惧される。食料自給率が低い日本は、食料需給の逼迫による、輸入品の価格高騰や調達難が大きな痛手となるだろう。
 そのため、農業にも力を入れていく必要がある。静岡県の食料自給率(24年度概算値)は、カロリーベースで18%、生産額ベースで57%と、日本全体の自給率(各39%、68%)をさらに下回っており、食料安全保障の観点からも、本県において農業振興は重要課題といえる。
 静岡県は、耕作放棄地面積率、空き家率とも、全国平均より高い。郊外に住む高齢者や若者夫婦に都市中心部の空き家への住み替えを促す一方で、郊外にまとまった広さの農地を創出することや、企業の農業参入を一段と促進することで、農業の足腰を強くしていくことが大切だろう。
 第2 の影響は、エネルギー消費量の増大であり、石油や天然ガスなど化石燃料の需給も逼迫するだろう。大規模災害や不測の事態が生じても事業を継続できるよう、分散型エネルギーやICT(情報通信技術)を活用して地域電力の最適利用を実現するスマートエネルギーネットワークの推進が欠かせない。
 短期的な利益を追求することは大切だが、20年後、30年後の社会はどう変わっているのかと想いを巡らせる中で、中長期的な自社の方向性を考え、新規事業を創造していくことも、企業を存続させるためには重要である。

投稿者:主席研究員 大石真裕|投稿日:2014年11月04日|

  • 主席研究員 大石真裕
  • No.42

伝統産業で「クール・シズオカ」を

 アニメやゲーム、ファッション、食など、日本独自の文化が「クール・ジャパン(かっこいい日本)」と呼ばれ、世界で注目度が高まっている。こうした状況を受けて、安倍政権の成長戦略でも、海外市場開拓の方策として「クール・ジャパンの推進」が掲げられた。

 国際的な都市間競争が厳しさを増す中で、地方都市も独自の文化を発信し、耳目を集めることが大切といえる。静岡県においては、世界文化遺産に登録された富士山が格好の材料といえるが、長い歴史を持つ伝統産業も有望なコンテンツとなろう。

 伝統産業は、ライフスタイルの変化や代替品の増加などにより日本国内でも需要が減少しているが、活路を開くヒントはある。たとえば、西陣織の老舗・株式会社細尾(京都府)が織り上げる生地は、シャネルなど高級ブランド店のインテリアに使われている。海外市場の開拓は失敗の連続であったというが、「求められない和の押し売りはやめた」と、こだわりを捨て、最終製品ではなく用途が広いインテリア素材に焦点を当て国際見本市に出展したことが奏功した。

 そこで注目されたのは、日本的な柄ではなく、織りの繊細で多彩な表現力自体であった。デザイナーの難しい要望に応えて、職人が伝統技法を駆使して完成した生地は、従来にないものとなった。

 また、消費者の視点から伝統産業を活かそうとする動きもある。株式会社和える(東京都)は、全国の伝統工芸職人と協力し、0-6歳児向け商品の開発・販売を行う。赤ちゃんのために、抗菌、保温・保湿効果がある本藍染を使った産着、靴下などを徳島県の職人と、また内側に「返し」をつけたこぼしにくい器を山中漆器(石川県)、砥部焼(愛媛県)、大谷焼(徳島県)の産地と作るなどしている。単に伝統工芸を現代風にアレンジするのではなく、ターゲットを明確にして必要とされる商品を考え、それを形にできる産地・職人を探して開発する。同社の製品は百貨店でも取り扱われ、バックオーダーを抱える人気商品もあるという。

 人・モノ・カネ・情報の国境を越えた移動が進み、生活、文化、産業が世界的に均質化する中、伝統産業は地域の個性として貴重な存在であるはずだ。本県には、駿河竹千筋細工、ざざんざ織などの伝統工芸に加えて、製紙、缶詰といった地場産業も数多い。今後は、素材の機能性への着目や技能・技術の新たな活用法を考え、現代人の生活・感性に合った製品に仕立てていくことが重要と思われる。伝統を尊重しつつ、革新を図っていく“不易流行”の精神による取組みで、「クール・シズオカ」と呼ばれる日が来ることを期待したい。

投稿者:主席研究員 大石真裕|投稿日:2014年01月31日|

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