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常務理事 高橋節郎 のコラム

  • 常務理事 高橋節郎
  • No.53

経済産業省プロジェクト「伊藤レポート」の意義

 昨年8月に経済産業省より発表された報告書「持続的成長への競争力とインセンティブ―企業と投資家の望ましい関係構築」、いわゆる「伊藤レポート」は、企業が投資家との対話を通じて、持続的成長に向けた資金を獲得し、企業価値を高めていくための分析、提言を行ったものである。
 同レポートによれば、日本経済を継続的な成長軌道に乗せていくには、個々の企業レベルの競争力を強化し、「稼ぐ力(収益力)」を高めることが急務である。そして企業は、資本効率を意識した経営への転換を図るため、ROE(自己資本利益率)向上を目指すとともに、グローバルな投資家と対話する際の最低ラインとして、8%を上回るROE達成をコミットすべきとしている。
 また、持続的な企業価値創造は、企業と株主による「協創(協調)」の成果であるため、経営者は、株主が成長を後押しする存在であることを認識する。さらに、企業と株主・投資家は、良好な「緊張と協調」の関係を築く必要があるが、それは建設的で質の高い「対話」と、企業価値創造プロセスを伝える「開示」により実現するとしている。つまり、企業には資本コストや企業価値向上を意識した経営が、投資家には中長期的な視点による適正な評価が求められる。
 ところで、アベノミクスの第3の矢である成長戦略「日本再興戦略」では、日本企業の稼ぐ力を取り戻すため、コーポレートガバナンス(企業統治)の強化が謳われた。これまでコーポレートガバナンスというと、不正行為の防止といった「守り」の部分が強調されたが、現在策定中の「コーポレートガバナンス・コード」は、企業の競争力・収益力を強化し、ひいては日本経済の成長を図るという「攻め」の経営を後押しするものである。
 これに先立ち昨年2月には、責任ある機関投資家の行動指針を定めた「日本版スチュワードシップ・コード」が制定された。これは機関投資家が、投資先企業と建設的な対話を通じて、企業価値の向上や持続的成長を促すことで、受託者責任を果たそうというものである。
 「コーポレートガバナンス・コード」と「日本版スチュワードシップ・コード」は、企業と機関投資家が対話に向かうための車の両輪であり、それをつなぐ車軸が伊藤レポートである。企業経営や投資は本来自己責任の世界であり、当事者の自主的な判断に委ねるのが望ましいが、長期にわたる日本の株式市場の低迷を見るにつけ、企業・投資家双方に変革が迫られていることは間違いない。同レポートには、企業・投資家が取り組むべき方向、課題が具体的に示されており、今後の指針となることが期待される。

投稿者:常務理事 高橋節郎|投稿日:2015年03月02日|

  • 常務理事 高橋節郎
  • No.47

経常収支の黒字縮小が意味するもの

 経常収支とは、モノやサービス、カネなどの海外との取引状況を示す指標であるが、2013年度は、7,899億円の黒字は確保したものの、比較できる1985年度以降で最小となった。
 これは、貿易赤字が過去最大となったことが主因で、特に輸入は、原子力発電所の稼働停止による液化天然ガス( LNG )の需要増、進出した海外工場からの逆輸入や円安の定着などにより大きく増加した。また、本年4月の消費税率引上げ前の駆け込み需要という特殊要因も加わった。
 一方、これまで日本の経常黒字を支えてきた輸出は、生産施設の海外移転、いわゆる空洞化の影響と、海外景気の弱さにより伸び悩んだ。これに対して、海外投資に伴う利子・配当所得など所得収支の黒字額は過去最大となり、貿易赤字を穴埋めした。
 もとより、貿易赤字や経常赤字それ自体が悪いわけではない。米国や英国、カナダ、オーストラリアのように経常赤字が常態の国もあるし、そもそも国際分業のメリットは、得意分野を伸ばし、不得意な分野を海外に委ねることにより得られるので、輸出も輸入もともに伸ばすことが、国民経済的には意味がある。
 しかし、経常黒字の縮小は、日本経済に大きな課題を投げかけている。まず輸出であるが、円安にもかかわらず伸び悩んでいる理由の1つが海外生産シフトであることは論をまたないが、日本の企業・製品の輸出競争力が低下していないかという点には留意が必要である。特に、これまで日本経済をリードしてきた電気機器メーカーのヒット商品不足の現状を見るにつけ、高付加価値化や研究開発能力の強化が望まれる。
 財政との関係はさらに重要である。一般に経常収支が赤字に陥った場合、それを海外マネーで補う必要があるが、日本の問題は巨額な財政赤字である。日本には300兆円を超える世界最大の対外純資産があり、また、日本国債は大半が国内で消化されているので問題は少ないといわれるが、今後、高齢化の進展で、これまで蓄えてきた貯蓄を取り崩す局面に入ると、将来、経常赤字が定着する可能性も高い。
 その場合、海外から見て日本が、魅力的な投資先であるかが問われる。海外の投資家にとって、先進国中で最悪と言われる日本財政の持続可能性は最大の懸念材料である。万一信用が失墜すれば、金利は大幅に上昇することが予想される。
 もともと日本は、高い法人税率や生活コスト、労働規制などで、他の先進国と比べて海外からの直接投資が少ないという特徴を持つ。規制緩和や成長を生む環境整備を図り、国内外の企業の投資を後押ししつつ、人材育成や研究開発支援により国際競争力を高めていく必要があろう。

投稿者:常務理事 高橋節郎|投稿日:2014年07月01日|コメントを書き込む

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