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常務理事 高橋節郎 のコラム

  • 常務理事 高橋節郎
  • No.0368

電車内でのマナーの悪さ

 新幹線通勤を始めて4年になるが、いつも気になるのが乗客のマナーの悪さである。私の場合、浜松駅で新幹線に乗り換えるのだが、まず取り上げたいのは、その前の在来線の車内でのことである。

 私が毎朝利用する電車は、通学、通勤の時間帯であり、また、ターミナル駅である浜松駅の1駅前で乗り込むため、すでに相当混んでいる。特に、乗降口の近くは多くの学生が陣取っていて、彼らは周りの状況には全く無頓着な(ようなふりをしている)ため、乗り降りする人にとっては、車内の出入りに相当苦労する。最近の高校生は、中身が一杯詰まったかばんを持ち、また体育会系のクラブに所属していると思われる学生は、それとは別に運動着や運動靴の入った大きなスポーツバッグを持っている。問題は、それらを彼らの足元の床に置いていることで、乗降客にとっては彼らのかばんをよけて通らなくてはならず、結果として、電車の発車時間が遅れるというようなケースもある。
 電車の乗降口付近に学生が集中するのは、浜松駅で早く降りたいがためと思われるが、実際に浜松駅到着後の彼らの行動を見ると、友人達と横に広がって優雅におしゃべりをしながらゆっくり歩いている人も多い。私のように新幹線の乗り換え時刻を気にして、急いで改札口に向かう者にとっては迷惑千万である。
 加えて、これはラッシュアワー時に限らないが、特に男子学生の中には、椅子に浅く腰掛け、足を前に伸ばしていることがよくある。そのうえ、大きなかばんを自分の足元、すなわち通路の真ん中に置く者までおり、他の乗客にとっては迷惑この上ない。彼らに、大きな荷物は網棚に載せる、という発想はないのだろうか。

 朝のラッシュアワーの混雑も、しょせん地方でのこと。車両の中央部をみれば、そこそこスペースは空いている。まして東京の殺人的なラッシュアワーと比べれば、たいした混み方ではない。そのため、乗客が少しでも車両の中ほどに詰めてくれれば、すべてスムーズに運ぶはずなのだが、電車のアナウンス以外にそうさせる手立てはなく、しかもその効果はあまりないのが残念である。私自身が、車内で彼らに積極的に注意するという方法もあるが、そうするほどの勇気はないので半ば諦めている。
 電車内のマナーの悪さは、学生ばかりではない。ここで、新幹線の車内での社会人のマナーの悪さについても触れておきたい。よくあるのは、手荷物を横の空いている座席に置いて、他人が横に座るのを拒む様な雰囲気をかもし出す人が結構多いことである。昼間の明らかに空いている時間帯ならまだしも、朝夕の混雑時に、そうした態度は考えものである。

 ところで、日本人は今般の大震災に際しても冷静に対処し、災害地犯罪や暴動、収奪事件なども起こらず、また救援物資を受領する被災者は、おとなしく列に並んで順番を待つというように、その倫理観の高さや美徳は、世界中の人達から賞賛されてきた。それだけに、電車内での悪しきマナーは残念でならない。
 マナーは、学校で教えるというより、本来、社会生活を営む中で自然に身につけるべきものである。ただ難しいのは、マナーの良し悪しは、自分が良いと思っているかどうかではなく、相手が良いと思うかどうかという点にかかっていることだ。つまり、マナーを良くするためには、周りの人がどう感じるかを察し、それにより自分自身の身を処する、という心の問題であることを各人が理解していく必要があると言えよう。

投稿者:常務理事 高橋節郎|投稿日:2011年07月28日|コメントを書き込む

  • 常務理事 高橋節郎
  • No.0342

「もしドラ」にみる経営の真髄

 ピーター・F・ドラッカーといえば、経営の神様と言われ、その著書「マネジメント」は世界で最も多くの人々から読まれている経営書として名高い。それが、最近、こともあろうに「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(通称「もしドラ」、岩崎夏海氏著)という青春小説で話題になっている。この本は、都立高校の野球部の女子マネージャーが、勘違いから手にしたドラッカーの経営書「マネジメント【エッセンシャル版】」を参考に、野球部の強化に取り組み、甲子園を目指すという青春ストーリーである。

 主人公の川島みなみは、野球部のマネージャーに就くにあたって、まずマネージャーとは何か、という問いを発し、「管理や経営をする人、つまりマネジメントをする人である」と理解する。そして、ドラッカーの本で、マネージャーに要求される根本的な資質を調べたところ、才能や後天的に獲得できるものではなく、「真摯さ」であるという記述を見つけ、それならば自分でも務められるのではないかと共感する。

 マネージャーとして、最初に始めたことは、野球部という組織の定義づけである。企業の場合、顧客を満足させることこそ、企業の使命であり目的となる。それでは、野球部にとって顧客とは誰かということであるが、主人公がいろいろ試行錯誤した結果、野球部員、親、先生、学校、高校野球ファンなどであると結論づけた。そして、彼らが野球部に求めているものは、野球というスポーツを通じて感動を得ることであろうから、野球部の定義は、「顧客に感動を与えるための組織」となった。

 「マネジメント」によれば、企業の目的は顧客の創造であり、その実現のために企業はマーケティングとイノベーションという2つの機能を持っている。マーケティングの主体は顧客であり、顧客は何を買いたいか、また、顧客が価値ありと認め、求めている満足こそがマーケティングの本質であるとする。そのため、主人公は、顧客である野球部員から、彼らの野球に対する現実、欲求、価値などの思いを知ろうと心掛けた。

 一方、企業は、成長と変化を当然とする経済の中で存在しているため、イノベーションにより、新しい価値を打ち立てることが必要である。そして、イノベーション戦略の第1歩は、古いもの、陳腐化したものを計画的かつ体系的に捨てることであることから、主人公は、監督と相談したうえで、「送りバント」と「ボール球を打たせる投球術」という、野球において最も伝統的とされている作戦を、あえて排除することにした。

 さらに、主人公は、野球部員のやる気を引き出す秘訣は何か、各部員の強みをどう生かすか、野球理論に精通した監督の専門性をどう実践に適用するかなどの課題について、ドラッカーの「マネジメント」から答えを導き出し、それを野球部の運営に活用することにより、同チームの実力アップに役立てようとした。

 以上、「もしドラ」について述べてきたが、野球部のような非営利団体についてまで、ドラッカーのいうところの企業の目的である「顧客との感動の共有」を当てはめることには、若干無理があるような気がする。また、「マネジメント」から導き出した実際の具体策が、野球部の活動に必ずしも妥当な手段・方法とは言い難い部分もある。しかし、これはあくまで「マネジメント」のケーススタディーであり、理論の応用編の一つとしてみれば、十分有意義な試みであると思われる。

 いずれにせよ、「マネジメント」という経営書のバイブルを、高校野球に応用するという発想は斬新であり、また体育会系の青春ストーリーとしても内容がしっかりしていることが、この本をベストセラーにした理由であろう。逆に、企業人の立場からは、この小説を読んだ上で、原典である「マネジメント」に戻って、自社の組織運営を再考することこそ重要であろう。その意味で、本書は青春小説という形態をかりたドラッカーの経営実践論であるといえよう。

投稿者:常務理事 高橋節郎|投稿日:2010年06月29日|コメントを書き込む

  • 常務理事 高橋節郎
  • No.0326

富士山静岡空港を利用して

 この10月に初めて富士山静岡空港を利用して、熊本に行く機会を得た。9月に一度、同空港を見学したことはあったが、実際に利用するのは初めてのことであった。利用してみた第一印象は、非常にコンパクトにまとまった空港であるということだ。これまで私は、国内外問わず多くの空港を見てきたが、国内の地方空港と比べてみても、機能重視のこざっぱりした感じである。もっともこれは、静岡空港の現在の就航ルートと便数を考えれば、妥当な規模と施設であるように思われる。

 このコンパクトさは、ターミナルビルから滑走路まで近いというコンパクトならではのメリットがある。すなわち、就航便数が限られているため、搭乗手続きが簡単な上、搭乗すれば飛行機はほどなく離陸する、また着陸時には、飛行機が着陸後わずかな時間でターミナルビルに着く。特に、バッゲージクレームで手荷物を受け取る必要がなければ、直ちに到着ロビーに到着する。

 使い勝手が良いという点では、空港に隣接した無料駐車場もそうである。自宅からマイカーで空港に行き、駐車場に止めて少し歩けばチェックインカウンターに到着する。帰途も、到着後待ち時間無しで空港から自宅へ戻ることができる。今回、熊本から静岡空港到着後、わずか1時間強で、浜松市内にある自宅に着くことができた点は驚きであった。こうした利便性を考慮すると、空港内でのショッピング施設やレストラン、アミューズメントが少ないというようなデメリットはやむを得ないだろう。

 今回の出張目的は、静岡県と熊本県との産業交流を促進するためであったが、私にとって熊本は、静岡空港が開港しなければ、まず訪問する機会はなかった地域である。しかしながら、初めて熊本に行ってみると、阿蘇山や雲仙天草国立公園、黒川温泉など観光資源の豊富さには本当に驚かされた。なかでも熊本市の隆盛振りには目を見張るものがあり、壮大な熊本城、メインロードを走る路面電車、整備が行き届いた水前寺公園、(中心市街地が充実としているといわれる)静岡市よりはるかに大規模で賑やかな繁華街と、枚挙にいとまがない。

 これまで静岡県は、日本のほぼ中央に位置し東京や大阪にも近く、また新幹線や道路網も充実しているため、飛行機を利用して移動するという文化が乏しかった。そのため、今のところ搭乗率はあまり高くないようであるが、これは、単に飛行機に慣れていないことが最大の理由であり、実際に経験してみればその便利さは自然にわかってくる。今回、幸いなことに、札幌、福岡、鹿児島、熊本、小松という、これまで静岡にとって移動が不便であった地域と結ばれたことで、新たな観光ルート、ビジネスルートが開けた。JALの運行廃止の可能性など、富士山静岡空港にとって、先行き予断を許せない状況が続くことも予想されるが、日本各地との距離が縮まったことは事実である。空港を利用して交流人口が増え、静岡県の経済、産業、文化の発展に貢献することを期待したい。

投稿者:常務理事 高橋節郎|投稿日:2009年11月18日|コメントを書き込む

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  • No.0306

「地域デビュー」して気がついたこと

 今年4月より、私は地元の自治会で、約200世帯からなる班の班長に選ばれることになった。私が所属する自治会は、最小単位が「隣保」で、「隣保」の集合体が班、6つの班が集まって総勢約700世帯から構成されている。
 班長の仕事としては、まず毎月2回発行される「広報浜松」の配布がある。700部の中から私が所属する班用に200部を取り出した上、世帯数に応じて10の隣保に振り分け、当日中に各隣保長宅に届ける。しかも、「広報浜松」に併せて、市議会、区役所、学校、医療、趣味、スポーツ、神社関連など幅広い分野にわたる印刷物やチラシも配布する必要があり、1回の作業で15種類程度の回覧物を仕分けなければならない大変手間のかかる作業である。
 この他に「訃報のお知らせ」の回覧がある。訃報という性格上いつ発生するかわからないため、班長在任期間中は家を空けることもままならない。また、班長会は毎月1回開催。さらに、班長は自主防災の役員も兼ねているため、その会合や練習のために休日が割かれることになる。「地域の祭り」や地元の神社に関しても、班長は重要な役割を担っている。

 このように班長は仕事量が多く、時間的にも制約されることから、その候補者選びに際しては大変苦労する。今年度は、たまたま私の所属する隣保内から選出する順番に当たっていたところ、私が昨年隣保長だったこともあり、私が班長を決める役回りとなった。そのための会議を隣保内で開いたが、各人が班長をできない言い訳を次々に語り始めたため、消去法的に私がやらざるを得なくなった。
 もともと私はこの地域の出身者であるが、社会人となってからは転勤族のためほとんど住んだことがなく、地域の行事にも参加したことがなかったため、今回が初めて本格的な「地域デビュー」となったわけである。地域デビューをして気づいたことは、まず、自治会活動への取組姿勢が人によって温度差の激しいこと。総じて、若年層は関心が薄く、ましてや一人住まいの住人においては、ゴミ出し以外に地域との接点はほとんどないといえる。また、会社組織と異なり、自治会の会長や班長は、特別な権限を持っているわけではないため、意思決定を下すことが非常に難しい。地域で何かを決めようとする時、それによって得をする人がいる一方、損をする人も出てくるのが普通であり、実際の運営に際しては、不利益を被る人々に納得してもらうことはきわめて難しい。そんなときに大切なことは、各人のボランティア精神に訴えることと、「地域のために」、「地域のことは地域の住人が決める」という住民自治の高邁な理念に訴えかけるしかない。

 自治会活動というのは、ほとんどが無償の行為であるため、今回の地域デビューを通じて、地域の暮らしが如何に住民のボランティア精神や自発的な活動に支えられているかを痛感した次第である。長寿化が進展する現在、定年後を地域で過ごす時間はますます長くなっている。我々の老後を充実したものとするためにも、地域と如何に共生していくかが問われる時代である。そのため、私もここ数年地域との接点を持とうと考えてはいたが、行動に移すきっかけがつかめず、結局何もできなかったというのが実情である。今回、期せずして班長という役回りが与えられたことで、否が応でも地域との関係を持たざるを得なくなったわけだが、結果的にスムーズに「地域デビュー」することができた、ということで前向きにとらえることにしている今日この頃である。

投稿者:常務理事 高橋節郎|投稿日:2009年05月21日|コメントを書き込む

  • 常務理事 高橋節郎
  • No.0291

ますます存在感を強める中国

 サブプライムローン問題に端を発した金融危機に対応するため、11月14、15日にワシントンで金融サミットが開催された。参加各国が、金融システムの安定に必要なあらゆる措置を講じることや、証券化バブルの再発防止のため規制を強化することなどについて同意を得たものの、その後の動向を見るにつけ、株式市場の混乱は一向に収まる気配がない。むしろこの金融サミットでは、従来のG7のみならず、新興国を含む20カ国・地域が参加したことからもわかるように、米国の指導力低下はもとより、世界的な重大事項が先進国のみでは決まらないことが明らかとなり、なかでも中国とブラジルの存在感が目を引いた。

 たまたま私は金融サミットの直前に中国を訪問したので、最近の中国事情について若干の感想を述べてみたい。今回の訪中の目的は、杭州市で開催された静岡県・浙江省経済交流促進機構の定例会議に出席するためであったが、併せて山東省の青島市、済南市、泰安市などを訪問する機会も得た。これらの都市はいずれも人口が数百万人規模の大都市であり、先進国が100年に一度の不況と言われている中、街中には車があふれ、道路は混雑している上、相変わらず建設中のビルやアパート、工事中の道路が数多くあり驚かされた。また、各都市間を結ぶ高速道路が整備され、大規模な工場団地が目立った。泰安市ではハイテク開発区が設けられ、また杭州市では静岡県と浙江省とのITビジネス交流会が開催されるなど、中国がIT産業はじめ技術開発にも力を注いでいることがよくわかった。
 観光地はどこも混雑しており、いずれも清潔で手入れが行き届いている。杭州市の西湖の湖畔を散策すると、かつての南宋の都の雰囲気をほうふつさせ、静寂と美しさで山水画の世界に引き込まれるようであった。また、休日を利用して、世界複合遺産に登録されている泰山(山東省)に登った。泰山は、秦の始皇帝以来、歴代の皇帝が天下統一を天に報告する「封禅(ほうぜん)の儀」を行った所で、「中国人ならば人生で一度は上りたい山」と言われるほどの名山であり、その雄大な自然と、悠久で豊富な文化旧跡に魅せられた。中国が歴史や文化、観光資源をいかに大切にしているかが実感できた。
 一方、町で見かける若者たちの服装は、米国や日本とかなり似かよったものになりつつある。以前に比べてカラフルなファッションが目立つ上、化粧をした女性も増えたような気がする。おそらくこれらは、インターネットの普及や北京オリンピックの開催などで、他の国々の流行やファッションをリアルタイムで知る機会が増えたためと思われる。

 よく言われるように中国には、食の安全問題や製品の品質管理、知的財産権の厳格化など解決すべき課題が依然として多く存在しているが、中国経済は、私が訪問した沿岸部を見る限り、総じて堅調であるという印象を持った。中国は今回の世界的な金融危機に際して総額4兆元(約57兆円)という巨額の景気刺激策を打ち出すことを発表した。また、先進国と歩調を合わせる形で今年に入ってすでに3回目の利下げを実施し、さらに輸出税還付率の引上げを行うなど景気を持続させるための対策を着々と打っている。こうした積極策により、ここ5年間続いた二桁成長の実現は難しいとみられるが、8%程度の高成長は維持できそうな勢いである。最近では、先進国の経済不振を新興国が補うというデカップリング論こそ影をひそめているが、米国や日本、ユーロ圏など先進国が八方ふさがりで、袋小路に陥っている現状を考えると、この闇から抜け出す推進力となるのは、やはり中国をはじめとする新興国ではないだろうか。

投稿者:常務理事 高橋節郎|投稿日:2008年11月25日|コメントを書き込む

  • 常務理事 高橋節郎
  • No.0270

避けたい「ガラパゴス化現象」

 今年の初めに野村総合研究所が出版した書籍*の中で指摘し、話題を呼んだ言葉に「ガラパゴス化現象」というものがある。
*「2015年の日本」------新たな「開国」の時代へ  東洋経済新報社刊
ガラパゴスとは、ご存知のとおり、南米エクアドルから西に約1千キロメートル離れた太平洋上の沖合いにある島々で、ガラパゴスゾウガメ、ガラパゴスイグアナ、ガラパゴスペンギンなど独自の進化を遂げた生物が数多く生息している。これはガラパゴス諸島が火山群島であり、大陸から隔絶された環境にあったことが影響したといわれる。ダーウィンがこの生態系を見て、進化論を考え出したことでも有名である。こうしたユニークな進歩を遂げた生物は、外から入ってきた外来種の攻撃にはきわめて弱いという特徴がある。これらを踏まえて同研究所では、品質や技術面では優れているが、「事実上の世界標準」(デファクトスタンダード)から乖離しているために競争力が低下した日本製品・サービスを「ガラパゴス化現象」と位置づけた。

 その代表例が携帯電話である。日本の携帯電話が画像や音楽などのコンテンツやメールサービスが充実し、世界で最も先進的なサービスであることは間違いないであろう。しかし、携帯電話の世界販売台数のシェアをみると、ノキア、サムスン、モトローラ、ソニー・エリクソン、LG電子の5社で8割強を占めるが、日系企業はソニーとエリクソンの合弁会社がかろうじてランクインしているにすぎない。これは世界の通信方式の主流が、欧州で誕生した規格になっていることや、日本ではNTTドコモなどの携帯電話事業者が携帯電話を販売するので、携帯電話メーカーにマーケティングを行う誘因が乏しかったことなどによる。EdyやSuicaといった電子マネー(非接触ICカード)や、地上デジタルテレビ放送についても、現在のところ日本が最先端を走っているが、「ガラパゴス化現象」に陥るリスクを内在しているという。
 この他にも、耐震基準が厳しく技術水準は世界トップであるが、コストが高く積極的に海外展開できない日本の建設業、国際ハブ空港の役割を果たせなくなった成田空港、日本の独自性にこだわり国際基準と離れて発展した企業会計制度、古くは銀行のBIS自己資本比率規制などもその例である。つまり、高度なニーズに基づいた市場が日本国内に存在するため、日本市場が独自の進化を遂げている間に、海外では「事実上の世界標準」が決まり、気がついた時には、世界の動きから大きく取り残されているのである。

 「事実上の世界標準」であれ、グローバルスタンダードであれ、これらはいずれも人為的に作ったルールであり、各国ないし関係者の妥協の産物にすぎない。日本が産業活動や社会制度の多くの面で制度疲労を起こし、閉塞感が漂う現状から脱皮するには、海外への進出はもちろん、海外との接点を多くして世界的な基準や標準、ルール作りに初期段階より積極的に関与することや、世界の中で仲間作りを地道に行っていくことが必要不可欠であろう。
 そうした中、最近の日本の若者に関する各種アンケートを見て、時々気に掛かるのが、豊かさを反映してか、内向き志向、海外離れの風潮が高まっていることである。実際、海外留学などでも、中国はじめアジアの留学生と較べて日本人は、ハングリーさに欠けるとともに、世界共通言語である英語力も総じて乏しいような気がする。日本がガラパゴス化することのないよう、若者による真のグローバル化に期待したい。

投稿者:常務理事 高橋節郎|投稿日:2008年06月04日|コメントを書き込む

  • 常務理事 高橋節郎
  • No.0253

中国浙江省を訪問して

 静岡県と浙江省との友好提携25周年記念式典・祝賀会に参加するため10月25日(木)に日本を発った。当日夜は、静岡県各界友好代表団総勢150名余に対して、浙江省人民対外友好協会主催の歓迎レセプションが行われ、歓迎ムードが否が応にも高まっていった。翌26日夕刻には、静岡県からの参加者約1400名と浙江省側約300名とが一同に会した記念式典及び記念祝賀会が浙江省人民大会堂にて行われ、これぞ中国というべき、とてつもないスケールの大きさに終始圧倒された。
 記念式典以外では、今回私の所属したツアーは経済界の関係者が多いこともあり、主に経済開発の観点より視察先が決められた。まず、浙江省政府より、経済発展計画と対外経済交流の概要について説明を受けた後、杭州市の新都市建設地である銭江新城を訪れた。これは市庁舎を含め杭州市の中心地を銭塘江沿いに移転させるという壮大な構想である。

 次に杭州湾を南北に縦断する杭州湾海上大橋。これは全長が36キロメートルと世界最長の海上橋で、上海から寧波までの距離が従来より120キロメートル短縮された。この桁外れの大橋が、わずか3年半で完成するというスピードにも驚かされた。また寧波港では、鈴与(株)より出向されている社員の方にご案内いただいた。巨大なコンテナターミナル、高く積まれたコンテナの山が目に焼き付いた。さらに、当日夜には寧波市主催の歓迎宴が開催され、寧波市の成長振りについて懇切丁寧な説明を受けた。
 私にとって2回目の浙江省訪問であったが、中国の発展振りを再認識させられた。特に印象に残った点は、至る所に建設現場があり、二桁成長を続ける中国のバイタリティーを実感したこと、道路や町並みが整備されており、町を走る車もきれいで、ごみもほとんど落ちていないこと、北京オリンピック後の経済停滞が懸念されているが、少なくとも私たちが訪れた地域を見る限り、まだまだ発展成長の余地は十分あることなどである。

 しかしながら、道路やインターチェンジといったハード面の整備は相当進んでいるものの、自動車の運転マナーや交通ルールの遵守といったソフト面では今一歩であることや、開発が進む一方で、石油、セメント、鉄などの大量消費が目立つこと、また、晴れているにもかかわらず、霞がかかって青空がほとんど見えないというように、資源の制約や環境面といった観点からは、依然として問題が多そうである。
 今回の訪中でよく聞かされたのが、昔の浙江省は一面農村地帯で、高いビルなど皆無であったとのこと。それが今ここまで欧米型の近代都市に変わりゆく姿を見ると、静岡県と浙江省との友好提携を企てた先人たちの先見の明には、頭が下がる思いで一杯である。今後も両県省間の交流をさらに拡大し、相互に発展していくことを切に願う次第である。

投稿者:常務理事 高橋節郎|投稿日:2007年12月11日|

  • 常務理事 高橋節郎
  • No.0235

知っておきたい「日本人のしきたり」

 私が銀行員時代に海外へ赴任して一番困ったのは、日本人でありながら日本のことをよく知らなかったことである。多くの人は、海外に行くことが決まると、その国の地理や風土、習慣などを予め調べようとする。それ自体は結構なことであるが、その地に相当期間滞在し、現地の人々と深く接するような機会がある場合は、必ずしも正しいとはいえない。というのは、これから渡航する先の事情については、その地に着いてから見たり聞いたりすることでいくらでも理解を深められるが、日本の伝統や習慣を外国人に説明するに際しては、ある程度の知識がないと会話が進まない。また、インターネットが現在ほど普及していなかった当時、海外で正確な日本情報を入手するのに結構苦労した経験をした。特に、神社と仏閣との違いや、日本人の宗教心など、もともと自分の理解が不正確なテーマが話題にのぼったときにはお手上げであった。

 ところで、最近のベストセラーで、「日本人のしきたり」((飯倉晴武士氏編著、青春新書)という本がある。この本は、日本の年中行事、冠婚葬祭、縁起、祝い事、手紙の書き方などを満遍なく網羅したものであり、全般的な日本のしきたりを理解する上で大変参考になる。この本は、初版が平成15年1月であるにもかかわらず、いまだにベストセラーを続けており、私に限らず、いかに日本人が日本の伝統文化に興味があるか(あるいは知らないか)を物語るものであろう。こうした伝統文化に対する関心が高まっている背景としては、やはり最近のベストセラーである「国家の品格」(藤原正彦著、新潮新書)にもみられるように、日本人としての拠り所を求めたいという回帰志向の流れにタイミングが合ったことがあげられよう。

 加えて、戦後長きにわたり進展してきた核家族化の影響も大きいものと思われる。筆者が幼い頃は、家庭は子供、両親、祖父母の3世代が一緒に住むのが普通であった。そして、門松やしめ飾りなどの正月行事や、お彼岸やお盆、端午の節句というようなしきたりや慣習は、両親というよりも、祖父母から教えられた。しかしながら、核家族化の進展は、こうした世代を超えた触れ合いを極端に減少させた。また、昨今では、家族の生活時間帯がひとりひとり異なる上、携帯電話やパソコンの普及などから、親子が接する機会も少なくなっている。ましてや「日本人のしきたり」などといった硬い内容について、家族間で話すことはきわめてまれである。こうして育った子供の世代がやがて大人になった暁には、その子供達との会話は今よりさらに減り、伝統文化の継承は、ますます難しくなっていくであろう。このように考えると、日本人全体が、日本の伝統文化やしきたりに対する理解は大変希薄になってきており、日本人としてのアイデンティティが失われてしまうのではないかという恐れが、この本に対して多くの人々が関心を寄せた理由ともいえよう。

 冒頭の話題に戻れば、海外で円滑なコミュニケーションを図っていくためには、相手との相違を認め、自分の拠って立つ所をはっきりさせた上で、相手に自分の意思を伝えることが重要であり、単に相手に迎合するだけでは尊敬されない。そのためには、日本人として、日本の伝統文化やしきたり、ひいてはその背景にある思想などを知っておくことが大変重要である。

投稿者:常務理事 高橋節郎|投稿日:2007年07月02日|

  • 常務理事 高橋節郎
  • No.0224

報連相

 先日、当研究所が定例的に開催している経営セミナーで、「報連相」をテーマとして取り上げたところ、約60名の参加者があった。「報連相」とは、いうまでもなく「報告」、「連絡」、「相談」のことであり、会社組織において組織目標を達成するために、部下が上司に対して行う基本的な行動である。「報連相」は組織人にとってあまりにも基本中の基本であるため、当所としても、新入社員を対象とするセミナー以外では、取り上げることに若干ためらいもあったが、実施してみると、経営トップである社長さんから若手社員に至るまで幅広い層から応募があり驚いた。

 当所ではセミナー終了後、受講者に感想(アンケート)を記入していただいているのだが、今回のセミナーでは、「大変参考になった」とか「目からうろこである」という意見が大半を占めるなど、受講者の評価はきわめて高かった。通常、経営セミナーの受講感想としては、「業種や職種が違うため自分には当てはまらない」とか、「講義内容が易し過ぎる」、あるいは「難しすぎる」といったような意見も数多く出てくるわけであるが、今回は、テーマが非常にシンプルなわりに前述のような好意的な意見が多く、主催者側としては、開催した甲斐があったということで非常に満足した次第である。

 改めて「報連相」を定義すると以下のとおりとなる。
・「報告」とは、上司から指示されたことに対して、その経過や結果を告げること
・「連絡」とは、仕事上の事実や簡単な情報を関係者に伝えること
・「相談」とは、判断に迷った際、上司や先輩等から参考意見やアドバイスをもらうこと
 いずれも至極当然のことであるが、このテーマのセミナーが好評だったということは、実際の職場において、いかに「報連相ができていないか」を物語るものであろう。

 それでは、多くの職場ではなぜ「報連相」が機能していないのであろうか?おそらく、「物事を自分の基準で判断しており、相手の立場に立って考えるという姿勢に欠けること」「「そこまで言わなくてもわかるだろう」と、(自分勝手に)以心伝心の世界を期待していること」「行き過ぎた成果主義などの結果、個人の直接的な目標以外のことに対しては無関心であること」などが考えられる。加えて、最近では「報連相」がうまく機能しない環境要因があることも事実である。たとえばインターネットの発展により、社内メール等を使えば、一度に多くの人たちに報告や連絡もできるが、逆に各人が発信するメールの数や量が多すぎて、受取る側がそれぞれのメール内容をじっくり吟味していられないことも多くなっている。 

 組織としての力を最大限に発揮するためには、情報の共有化が重要であり、そのためには「私は知らない、聞いていない」という状況に陥ることは極力避けなくてはならない。
 また、重要な情報については、相手に伝わっているかどうかを確認してみることが不可欠である。結局、「報連相」を効果的に行うには、「気配り」、「目配り」といった、他人に対する思いやりが大切である。そして、そのための前提として、モノを言いやすい雰囲気作りや、(文明の利器に過度に依存しない)フェースツーフェースの接触を増やして、円滑なコミュニケーションができる土壌を醸成しておくことが必要であろう。

投稿者:常務理事 高橋節郎|投稿日:2007年02月28日|

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  • No.0213

セレンディピティ(偶然を幸運に変える力)

 島津製作所の田中耕一氏は、質量分析装置で測定対象に間違った試料を混ぜてしまったところ、その結果を「むしろ普段より注意深く」観測した結果、ノーベル賞受賞につながるような大発見ができた。また、米国スリーエム製造の「ポストイット」は、もともと接着剤としては失敗作であったものの、製品化に結びつけた、という運のよい結果であったといわれる。すなわち、「くっつくがはがれてしまう」という失敗作に対して、別の活用策を精一杯考えることにより、「落ちない糊付きしおり」や「新しいコミュニケーションツールとしての伝言メモ」にまで発展させた。さらに昔にさかのぼれば、ニュートンはリンゴが木から落下するのをみて「万有引力の法則」を発見したし、アルキメデスは風呂からあふれ出るお湯の量を見て「浮力の法則」を考え出した。

 いずれも直接的には偶然の産物であるといわれるが、このように、「偶然をとらえて幸運に変える力」は、英語で“セレンディピティ(Serendipity) ”とよばれる。この言葉の由来は、おとぎ話「セレンディップ(セイロン)の3王子」の主人公が持っていた、幸運を招き寄せる力からきている、といわれている。ともすれば、こうした事象は単なる偶然と済ませがちである。しかし、重要なことは、「偶然見つけた」とか、「ふと思いつた」という背後にはしっかりした土台があり、この土台があるからこそ、努力した者だけが日常の中から運よく成功を取り出すことができた、ということである。すなわち、常日頃から成功の種をまいていたからこそ、後日芽が出てきて、それだけ幸運に当たる確率も高くなったということであり、成功は、運不運の問題ではなく、幸運を引き寄せる能力の問題である、というのがこの言葉の持つ意義である。

 このように考えると、前述のような世紀の大発見とまでいかなくても、セレンディピティは通常のビジネスを展開するうえでも重要なポイントとなろう。たとえば、新製品の開発や取引先の開拓、販売増強などでどんなに大変な場面であっても、日々真剣に考え努力している人ほど、ふとしたきっかけで事がうまく運ぶことはよくある話であり、何もしないで果報を待っているだけでは決して良い成果は得られないであろう。つまり、同じ変化がすべての人に平等に降り注いでいるとしても、そうした変化に気づく人と気がつかない人との差である。ちょっとした変化に敏感に気づく人は、幸運を自分のものにすることができる可能性が高い。そして、変化に気がつくには平時の様子を観察し、小さな変化を見逃さないようにする心がけが重要である。結局、問題意識をもって、地道に不断の努力を行うことこそが幸運をつかむ秘訣であろう。

投稿者:常務理事 高橋節郎|投稿日:2006年11月10日|

  • 常務理事 高橋節郎
  • No.0201

ロングテール現象は本物か

 「売れ筋の20%の商品が総売上高の80%を占める」というのが、これまでビジネスの常識といわれてきたが、その法則がここにきて覆されようとしている。これまでは確かに、在庫や売り場スペースのことを考えると、できるだけ売れ筋商品に的を絞り、そうでない商品、いわゆる死に筋商品は極力縮小する、というのが賢い経営とされてきた。

 これをグラフで表してみよう。縦軸に売上高、横軸に商品群をとり、各商品を売上高の多い順に左側から並べていくと、ヒット商品は恐竜の形をした頭から背中の部分(ヘッド)に集中し、死に筋商品は売上げがほとんどゼロにはりついた、非常に長い尾(ロングテール)の部分に位置する。ところが、最近のインターネットの進化により、これまで日の当たらなかった死に筋商品が脚光を浴び、売れ筋20%の売上高に匹敵するようになる、「塵も積もれば山となる」というのが、いわゆるロングテール現象である。

 代表的な例として、アマゾン・ドット・コムのようなネット書店がある。同社の場合に
は、売り場スペースは不要であり、単に商品をネット上に登録しさえすれば、あとはユーザーが勝手に注文してくれるため、非常に効率的な商売ができるようになった。また、音楽などデジタルコンテンツの配信サービスなども、多種多様なものまでを容易に提供できるため、ネット取引の最適な活用例である。

 こうしたかつての常識にくさびを打ち込んだのが、グーグルによる検索機能の高度化とブログの普及である。インターネットユーザーは、検索機能を活用することで、非常にニッチな商品であっても容易に入手できるようになった。また、昨今のブログの多さには目を見張るものがあるが、ブログを通じて全国の消費者から、事細かな情報が手に入るようになった。

 ブログの発展は、商品情報の流れをも変化させることになった。一般に、恐竜のヘッドの部分はいわゆるヒット商品のため、大手企業による大規模サイトが中心であるが、ロングテールの部分は、個人はじめ中小規模サイトによるもので、ブログなど膨大な数の消費者発信メディアである。その結果、これまで商品情報は、主に企業側から消費者に向けて一方的に発信されてきたのに対して、最近では口コミを通じて消費者間や「消費者から企業へ」の流れを促進させることになった。この消費者からの膨大な情報の流れが、ニッチ商品の存在を際立たせることになる。

 ロングテール現象は実店舗を持たないネット事業におけるメリットとされているが、ネットの中での口コミ情報等を通じて、リアルの世界における商品やサービスの売買にまで影響を及ぼしている。加えて昨今では、ブログにアドセンスと呼ばれるコンテンツ連動型広告を貼り付けることにより、ブログの書き手にとっては広告収入が入り、広告主にとっては効率的な宣伝が可能となったため、ブログは今後も増え続けるものと思われる。

 これまで日の目を見なかった商品に光が当てられる、という広い意味でのロングテール現象は、一時的な流行ではなく、今後も持続するものと思われる。それだけに消費者にとっては、膨大な情報の中から取捨選択する能力を養うこと、またモノやサービスの提供者にとっては、インターネットを一層有効に活用することの重要性は増していくであろう。

投稿者:常務理事 高橋節郎|投稿日:2006年08月07日|

  • 常務理事 高橋節郎
  • No.0191

初心忘るべからず

 最近の景気拡大や好調な企業業績を反映して、雇用関係の指標も好転している。本年3月の失業率は前月と変わらず4.1%で、引続きここ数年来の最低水準を維持するとともに、有効求人倍率は1.01倍で昨年12月以来4カ月連続して1を上回った。こうした良好な雇用環境を受けて、来春卒業予定の大学生・大学院生の採用計画も大幅に増加している。

 株式会社リクルート社傘下のワークス研究所によれば、景気の堅調さと今後予想される団塊世代の大量退職という事情などから、2007年卒業予定の大学生・大学院生を対象とする全国の民間企業の求人総数は82.5万人と、昨年より12.6万人増加し、バブル期(1991年)の84万人に次ぐ水準となった。一方、学生の民間企業就職希望数は43.7万人で昨年とほぼ変わらないことから、新卒の求人倍率は昨年の1.60倍から1.89倍に上昇し、学生にとっては久々の売り手市場といえる。

 そのため、企業側は新卒採用に加えて、大卒の中途・通年採用を増やしているという調査結果も出ている(4月26日付日本経済新聞)。一方、社員の意識も従来と異なってきている。大手志向・安定志向は変わらないものの、就職しても3年以内に離職する者が中卒者の7割、高卒者の5割、大卒者の3割を占めるという、いわゆる「7・5・3現象」が恒常化してきた。すなわち、「就職」が、かつてのような「就社」を意味するものではなくなっているのである。加えて、ここ数年にわたり企業が実施してきたリストラの中で、派遣社員やパートタイマーなどの非正規社員の割合は確実に増えつつある。

 こうした中、今年度の県内経営者による新入社員向けメッセージをみると、「挑戦意欲」、「自己研鑽」、「良き社会人」という言葉が多かったように思う。いずれも言い尽くされた言葉ではあるが、よくよく考えてみると、これらは新入社員に向けた言葉というだけでなく、すでに企業に勤めている社員全体に対しても通じるものといえる。つまり企業は、社員がこうしたメッセージを実践できるような環境を整えることが肝要であろう。特に、現在のように、雇用形態が多様化して、各人のロイヤリティやモラルの高さを維持することが難しくなっている状況においては、そうした企業風土を醸成することの重要性は増している。それにより、「人材」が「人財」となり、企業の永続的発展に寄与することが期待される。トップによる新入社員向けメッセージをみて、改めて「初心忘るべからず」ということを痛感した次第である。

投稿者:常務理事 高橋節郎|投稿日:2006年04月28日|

  • 常務理事 高橋節郎
  • No.0182

美人コンテストと相場の予測

 毎年、年末、年始になると、新しい年の経済見通し、特に株価や円ドル相場の見通しについての調査記事が多くなる。これは、会社の経営に活かすためや、個人の利殖の参考にするためなどの違いはあるにせよ、多くの人々がそれらに関心をもっているからであるが、筆者のような回答する立場になって考えてみるとなかなか難しい。

 一般に、経済成長率などは、その国のファンダメンタルズを分析することにより、ある程度の方向性を示すことはそれほど困難ではない。まして現在のような低成長下にあっては、エコノミストの間でも際立った差は出てこない。しかしながら、株価や為替相場など市場関連の予測となると意見が大きく分かれる。相場を予測するには、対象期間の長さやファンダメンタルズのみならず、各国経済の相対比較や人々の思惑、はたまた突発的な事項の発生の可能性など、ありとあらゆる要素を考慮する必要がある。加えて相場には、もともとオーバーシュートしやすい傾向があるので、正確な予測は一層困難となる。

 相場の行方を尋ねる方にしてみると、専門家だから、当然、的確な答えが返ってくるだろうと思いがちであるが、それができるくらいなら世の中のエコノミスト、アナリストと呼ばれる人たちは皆大金持ちになって、とっくに引退しているはずである。そういう話を聞くことがほとんどないということは、経済に精通しているプロであっても相場を予測することがきわめて難しいという証左である。今から数年前に、ノーベル経済学者が創業に関与し、精緻な理路構成でデリバティブを駆使して大儲けしていたヘッジファンドLTCMが破綻したことからも、相場の予測とその世界で生き抜くことの難しさがわかる。

 仮に、あなたが1年後の相場見通しを聞かれたら、大多数の人は、現在の相場からみて、株価ならプラスマイナス2から5千円程度、円ドル相場ならプラスマイナス20円程度の範囲内で答えを用意するのではないだろうか。そして、それがプラスかマイナスかは、その人が考える今後の経済のシナリオによって決まることになる。専門家といえども、やっていることはこれと大差ないのが実際のところである。

 そもそも市場とは、著名な経済学者であるJ.M.ケインズが株式投資についていうところの「美人投票」のようなものである。これは、「美人コンテストで選ばれた美女を当てた人に賞品を与える」といった催しを行った場合、その勝者になる秘訣は、自分が美しいと思う女性ではなく、他の参加者が美人と考える女性を選ぶことである、というものである。言い換えれば、何が平均的なコンセンサスになるかという、不特定多数の参加者の平均的な見方を予測することがポイントとなる。

 結局、相場を決めるのはその金融商品・指標に対する需給関係であるが、需給に影響を及ぼす要因をわれわれが完ぺきに網羅し予想することは不可能であるだけに、他人、なかでも専門家と言われる人たちが、今後の相場について、どういう根拠で、どのようにみているかを知ることが大変大きな意味を持つのである。

投稿者:常務理事 高橋節郎|投稿日:2005年12月30日|

  • 常務理事 高橋節郎
  • No.0172

数字の裏付けが不可欠

 「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」(山田真哉氏著、光文社新書)という本が売れている。まず、この表題のみでは何を言っているのかわからないところが、読者の関心をそそる。「さおだけ屋」とは、「たーけやーさおだけー」というメロディーにのせて、洗濯物を外に乾すための「さおだけ(竿竹)」を売っている業者のことで、彼らの商売がどのように成り立っているのかを会計学的に解き明かすところから本書は始まる。「さおだけ屋」を見かけたことのある人は多いだろうが、どうみても「さおだけ」が飛ぶように売れているとは思えないし、それだけで商売が成立つとは考えにくい。その謎を理論的に解いていくことで、読者は会計学的な知識が身につくという実務書である。結論から言えば、「さおだけ屋」の謎は、実は売上が高い一方、仕入れの費用が安いところにあるのだが、そこに至る説明が実にわかりやすい。

 また、郊外の住宅地にある高級フランス料理店が何故やっていけるのかという設問に対しては、副業として料理・ワイン教室を実施することで本業の商売が成立っているという実例を出して、最終的には企業における連結経営の重要性を説いている、といった具合である。

 以下、在庫と資金繰り、機会損失と決算書、回転率、キャッシュフローなどの会計学的テーマを、身近な例を示しながらやさしく説明しており、ついつい読者は引き込まれる。
会計学という、一般的には無味乾燥なテーマを、高校生でも理解できるようなレベルで書いていることがベストセラーとなった理由であろう。

 会計の数字は企業の状態を映し出す鏡であり、経営活動は必ず会計の数字に反映される。
 つまり、企業経営と会計とは切っても切れない関係にある。書店に行くと、会計や財務に関する本があふれているが、逆にいえば、この分野はそれだけ理解しにくいからであるとも言える。本書のように、難しいことをやさしい例を使って説明するには、著者が事の本質を本当に理解していないとできないことであり、会計の本質を知る上で本書を一読する価値はあるものと思われる。
 
 本書の中で、「優秀な経営者には、おさえるべき数字はちゃんとおさえている人が多い」というくだりがあるが、この良い例が、やはり最近流行りの本で、株式会社ハマキョウレックス社長の大須賀正孝氏が書かれた「やらまいか!」の中にみられる。この本の中で、同社長は、商売の秘訣や、「やる気」の重要性を厳しいながらもユーモラスに語る一方で、「収支日計表」を作成することにより原価計算をきちんと行うことの重要性を説いている。
 商売を成功させるには、数字の裏付けが不可欠であるということであろう。

投稿者:常務理事 高橋節郎|投稿日:2005年09月30日|

  • 常務理事 高橋節郎
  • No.0157

日本の国際競争力

 スイス・ローザンヌに本部を置く有力ビジネススクール、IMD(経営開発国際研究所)がこのほど発表した恒例の「国際競争力ランキング2005年版」によれば、日本は60カ国・地域中第21位で、前年の23位より2つ順位が上昇した。日本は、同調査が始まった1989年から90年代初頭まで世界第1位を維持していたが、バブル崩壊により2002年には27位まで順位を落とした後、回復傾向にある。ちなみに第1位は5年連続で米国、次いで香港、シンガポール、アイスランド、カナダ、フィンランドの順となっている(下表参照)。また、日本より上位に位置するアジア諸国には、台湾と浙江省(中国)がある。昨年24位の中国は、エネルギー・環境問題や金融制度の不備、企業統治の弱さなどから、今後の経済成長の持続性が問題視され、31位まで順位を下げた。

 このランキングは、マクロ経済状況、政府の効率性、ビジネスの効率性、インフラ整備状況の4分野を314項目にわたり指数化したもので、日本はインフラの整備状況こそ第3位だが、マクロ経済状況21位、ビジネスの効率性35位、政府の効率性40位と今ひとつさえない状況である。特に、法人税率の高さと語学力は、調査対象60カ国・地域のうち最下位であるほか、外国人労働者受入のための法整備状況や生活費指数の高さが59位であった。一方、第1位の項目は、外貨準備高、中等教育普及率、平均寿命の高さなどであった。

 もともとこのランキングは、ビジネスを展開する上で、その国・地域がいかに魅力的であるかを比べたものである。このように国や地域を、国際競争力という観点から正当に評価できるかどうかについては議論が分かれるところであり、人口や経済規模に違いがあるにもかかわらず一律に比較することは若干無理があろう。特に、米国を除く先進6カ国の地位が相対的に低い(上位20位以内に入れない)ことも問題なしとは言えないだろう。
 しかし、この調査の長所の一つは、継続的に各国の競争力の変化が示されているということにある。ジャパン・アズ・ナンバーワンといわれた1980年代後半、日本経済は確かに強かったし、バブル崩壊後の金融不安やデフレ不況に苦しんだ2000年前後に相対的な地位が低下したことは実態に則しているといえる。その意味では、循環的な景気動向や政治経済の発展段階によって、ランキングの順位が入れ替わるのは当然といえよう。

 日本は世界第2位の経済大国であるが、人的資源や金融資産以外にこれといった資源を持たないため、今後も持続的な成長を続けていくには、他国・地域比劣位にある項目を早急に改善する一方、強い部分については一層高めるよう努力していく必要があろう。

(表)世界競争力ランキングの上位国・地域
 1 米国          8 スイス         15 ノルウェー
 2 香港          9 オーストラリア    16 ニュージーランド
 3 シンガポール    10 ルクセンブルク   17 オーストリア 
 4 アイスランド     11 台湾          18 バイエルン州(独)
 5 カナダ         12 アイルランド     19 チリ
 6 フィンランド      13 オランダ        20 浙江省(中国)
 7 デンマーク      14 スエーデン      次点 日本
                                  

投稿者:常務理事 高橋節郎|投稿日:2005年06月06日|

  • 常務理事 高橋節郎
  • No.0142

地上デジタル放送開始が及ぼす影響

 本年6月1日より、静岡県内でもNHKと静岡放送が地上デジタル放送を開始する。ほかの民放も本年11月よりスタートすることになっている。すでにBS(衛星放送)では、2000年12月よりデジタル放送が始まっているが、地上デジタル放送は視聴者の数がBSに比べて圧倒的に多いため、その影響は相当大きいと予想される。

 一般に言われる地上デジタル放送のメリットは、高画質・高音質、災害情報など地域の情報をきめ細かく伝えるデータ放送、視聴者も番組に参加できる双方向機能、携帯電話等の移動体向け放送、多チャンネル放送などであるが、そもそもアナログ放送からデジタル放送に変更する理由は、電波の有効利用という国策によるものである。すなわち、現在のアナログ放送で使用しているUHF帯域を圧縮することにより、残りの帯域を通信など他の電波利用に振り向けるためである。

 地上デジタル放送を見るためには、地上デジタル放送対応テレビを購入するか、現在のアナログテレビに、専用のデジタルチューナーを取付ける必要がある。また、同放送はUHFの電波を使うため、UHFアンテナが必要である。デジタル放送が始まっても、当面アナログ放送が同じ編成で行なわれるため視聴者にとって支障はないが、最終的にアナログ放送は2011年7月14日をもって終了する。それまで残り6年半と迫っているため、消費者が今後テレビを新しく購入したり買い換える際には、こうした事情を十分念頭において対応することが重要である。ちなみに総務省による地上デジタル放送の世帯普及目標は、ドイツワールドカップサッカーが開催される2006年に10百万世帯、北京オリンピックが開催される2008年に24百万世帯、そしてアナログ放送が終了する2011年には全世帯である48百万世帯となることを期待している。

 放送局にとって、デジタル放送開始に伴う投資費用(送信所・中継局設置、番組製作費用等)は非常に大きい。さらに、今後アナログ放送廃止に向けたスケジュール等について、消費者に十分知らしめる必要があるほか、デジタル放送のメリットを活かした上で、消費者のニーズにマッチするよう番組(コンテンツ)を充実させるなど、企業としての真価を問われることになる。

 一方、これらをほかの産業界の立場からみると、大分様相が異なってくる。将来的にテレビはありとあらゆるデジタル家電と結びつき、また通信とも結合して家庭内の総合情報端末となることが予想されている。そしてテレビは「見るもの」から「使って楽しむもの」に変わり、まさに娯楽の王様となろう。政府のU-Japan構想においても、「デジタルテレビはIT社会のゲートウェイ(出入り口)」とされ、デジタル放送をユビキタス社会の中核と位置付けている。このように地上デジタル放送は、テレビを通じて我々の生活全体を変えていくことになるため、関連業界を中心に新たなビジネスチャンスが広がっていくものと期待されている。

 こうした将来像から考えると、一般の消費者にとっても、今まで以上に各人の興味の範囲や関心といった意識の持ち方次第で、デジタルディバイド(情報格差)が発生するようになり、日常の生活様式や人生の楽しみ方も個人ごとに大きく異なっていくことになろう。その意味で、今後は従来以上に、自分の人生は自分で切り開いていくことの重要性を認識することが大切といえよう。

投稿者:常務理事 高橋節郎|投稿日:2005年02月10日|

  • 常務理事 高橋節郎
  • No.0131

韓国ブーム(韓流)に思う

 世を上げて韓国ブームである。本屋には必ず「韓国コーナー」が設けられるようになっており、ハングルを習う人が急増。また、韓国からのスターが来日すると空港に女性ファンが殺到し、さらには、韓国への旅行者も急増している。

 韓国の大衆文化や芸術が、韓国外で流行することを意味する「韓流(はんりゅう)」という中国語が、いつの間にか日本でも定着してしまった。そのきっかけは、何と言っても爆発的な人気を呼んだテレビドラマ「冬のソナタ」であろう。ストーリーは、主人公の男女が、紆余曲折(うよきょくせつ)を経て高校時代からの愛を貫き通したという、きわめてシンプルな物語であるが、その単純明快さと純粋なところが非常に受けた。また、家族への思いやり、年長者への敬意、儒教的な精神など、しばらく日本人が忘れかけていたものを久し振りに思い出させた。それに加えて、美男美女の出演者達。日本ではスターと「普通の人」との差がなくなりつつあるのに対して、韓国では、スターは一般庶民にとって、依然として高根の花のような存在であるらしい。

 日本のいわゆるトレンディードラマが、どれも似たり寄ったりで、ファンから飽きられてしまっているのに対して、ドラマの原点を教えてくれたと評価することもできる。また、これまで日本で大流行した「シュリ」や「JSA」などの映画にあった、政治的な色彩が濃く重苦しいテーマから開放されたことも、日本をはじめとする海外で受入れられた理由であろう。しかし、一連の韓国ドラマをみると、先進国としての韓国を強調しすぎている面も感じられる。ドラマに登場する職業や素材が、建築デザイナー、音楽プロデューサー、土地開発ディベロッパー、ホテル、ラスベガス、カジノというように、先進国の象徴のようなものが多い。これらは先進国に早く追い付きたいという韓国人の願望が少なからずあるような気がする。うがった見方をすれば、現在、日本で流行っているようなドラマは、韓国人の理想とするところを中心に見せて、悪いところ、未発達の部分は出来るだけ覆い隠しているともいえ、その意味では、我々外国人は、たとえドラマの中とはいえ、虚像の韓国を見ていることになる。

 ともあれ、日本にとって韓国は、輸出入ともに第3位の相手国である。一方、韓国にとっても日本は、最大の貿易赤字国であるというように、両国の経済的な関わり合いは、もともと相当深いものがある。また、昨今では地政学的な観点からも、中国を含めた日韓の関係の重要性は、従来よりもはるかに増している。現在の韓国ブームが日韓双方の理解を深め、過去における両国間の不幸な歴史を少しでも修復できれば結構なことである。特に最近のブームに熱中している日本のファン、特に若い世代は、過去にとらわれずに純粋な観点で韓国を見ているだけに、「韓流」が一過性のブームに終わらないことを切に希望する。

投稿者:常務理事 高橋節郎|投稿日:2004年11月11日|

  • 常務理事 高橋節郎
  • No.0118

21世紀を担う国々はBRICs(ブリックス)

 BRICs(ブリックス)という言葉がある。これは、ブラジル、ロシア、インド、中国(China)の略で、21世紀を担うのはこれらの国々であるという調査報告書が米国の有力投資銀行ゴールドマンサックス証券より昨年暮れに発表されて一躍有名になった。この報告書では、現在の先進6カ国(米日英独仏伊、以下G6)とBRICsのGDPを比較して、現状のBRICs4カ国のGDPはG6合計の15%に過ぎないが、このまま推移すると2025年にはG6の半分に、そして2039年にはG6と並ぶとしている。その結果、2050年におけるGDPの国別順位は、中国、米国、インド、日本、ブラジル、ロシアとなり、現在の先進国のうち、50年先もG6に留まることができる国は米国と日本のみとなる。ちなみに、現在のところ、日本のGDPは、米国に次いで世界第2位であるが、2015年には中国、2032年にはインドに抜かれるとのことである。

 BRICsに共通しているのは、広大な国土、多い人口、豊富な天然資源である。前述のとおり、この報告書は米国の名だたる投資銀行が作成したものであり、BRICsへ投資資金を呼び込みたいとする商売上の意図が背後にあることは間違いない。とは言え、これらの国々が、現在の路線を大幅に誤らなければ、このシナリオはかなりの確度で実現可能と思われ、こうした成長の流れに沿ってBRICsに資金を投資していくことは、長期的にみれば、新たな収益機会となるであろう。

 一方、本報告書によれば、1人当たりのGDPでみると、現在の先進国は21世紀半ばでも引続き上位に位置するとしている。つまり、将来は、(BRICsのように)GDPが大きい国だからといって、それが必ずしも国民一人一人が豊かであることを意味しない、という状況が浮かび上がってくる。

 ちなみに、日本の2050年における1人当たりGDPは、67千ドルと想定されている。これは現在(34千ドル)のほぼ倍の水準だけに、それだけみると、日本にとって優雅な未来像が期待できるようにみえるが、2050年というと、日本の人口が現在の1億27百万人から1億人にまで減少するときである。一般に、GDPは人口の伸びに大きく左右されるため、人口が減る中で1人当たりGDPを現在の2倍にまで増やすということは、生産性をそれに合わせて向上させる必要がある。具体的には、人口が現在より27百万人減る一方、GDPというパイは現在の1.6倍程度*まで増やさなければならない。

 ここ数年、デフレ経済の進展により日本の名目GDPは500兆円前後で伸び悩んでいる。こうした状況を考えると、為替レートが極端に円高にならない限り、GDPを大きく伸ばすことは容易ではないと思われる。人間、どこまでいっても、努力しないで豊かになることはできないということであろう。

 *(67千ドルx 100百万人)/(34千ドルx 127百万人)=1.6 

投稿者:常務理事 高橋節郎|投稿日:2004年08月03日|

  • 常務理事 高橋節郎
  • No.0105

技術革新の代償

 六本木ヒルズで男児が自動回転扉にはさまれて死亡するという事故を受けて、多くのビルやホテルで自動回転扉の設置を取り止める動きが広まっている。そもそも回転扉は、風やほこりを防ぎ、ビル内の暖気や寒気を逃さないようにする気密性の高さにそのメリットがある。日本では、ビルの出入口にある扉としては、横(左右)に開閉する自動扉が一般的であるが、米国では、従来より、回転扉の方が普通である。ちなみに、2001年9月11日の同時多発テロにより倒壊したニューヨークの世界貿易センタービルの出入口は、すべて回転扉であった。

 しかし、米国で普及している回転扉は、自動ではなく手動であり、また、1つのスペースに1人、合計でも全体で4人しか入れないものがほとんどである。そのため、回転扉に慣れていない日本人が初めて回転扉に遭遇すると、回転扉に入るタイミングがわからなかったり、(本来は手で押さなければ進まないものを、)自動的に動くものと錯覚して、後から別の人が入ってくるまで、何もしないで待っていることが多い。

 それに対して、日本で普及している回転扉は、一つのスペースに複数人が入ることができる大型のものであり、また入ってきた人をセンサーにより感知し、自動で回転するものである。一見すれば、日本の方がはるかに先端をいっているようにみえるが、今回の事故を見るにつけて、便利なものや技術的に優れたものが、社会的な見地からも有益とは必ずしも言えないことを物語っている。

 これと同じような例の一つに、米国における小切手の普及がある。たとえば、米国では、クレジットカードは日本とは比較にならないほど普及しているが、クレジットカード会社からカード利用者に代金請求があると、利用者は自ら金額を記入し署名を行なった小切手をクレジットカード会社へ郵送するという手続きがとられる。電気やガスといった公共料金の支払も、これと同様、小切手を郵送するのが普通である。

 日本の場合は、銀行の自動引き落としにより利用者から当該会社への口座振替が行なわれ、個人には負担をかけないシステムができている。客観的に見て、小切手を振り出し、それを封筒に入れ、切手を貼って郵送するよりも、日本のように銀行が自動的に資金を振替えるシステムの方がはるかに合理的に見える。しかし、命の次に大切なものとされる「おカネ」の支払については、他人(銀行)を信用することなく、自らのリスクで行なうことが米国流といえる。

 このほかに、日本では一般的なサービスでありながら米国に少ないものとして、公のスペースに設置されたジュースやタバコなどの自動販売機がある。自動販売機が米国で普及していない理由は、犯罪防止にある。米国では、自動販売機ごと盗まれたり、それを壊して内部の現金を持ち去るような荒っぽい犯罪が少なくないため、屋外に自動販売機を置くことはきわめてまれである。

 我々が幼い頃、人類の未来は、技術革新が進む結果、コンピューターやロボットがほとんどのことを代行してくれるため、人間は高度な頭脳労働や芸術を味合うなど、頭を使うことのみに注力すればよいとするバラ色の世界を夢見ていたが、現実はそう甘くないようである。命やおカネ、安全といった、人間が社会生活を営む上で根本に係る部分については、あえて不便さを許容することも重要と思われる。

投稿者:常務理事 高橋節郎|投稿日:2004年04月23日|

  • 常務理事 高橋節郎
  • No.0092

米国の双子の赤字を巡る議論

 米国の「双子の赤字」が問題となっている。双子の赤字とは、貿易(経常)赤字と財政赤字のことで、いずれも過去最大の金額を記録している。2002年の経常赤字は5,034億ドル(約63兆円)で、日本が14兆円の黒字であることと比べると対照的である。一方、財政赤字は、昨年度初めて3,000億ドル(約36兆円)を上回り、今年度も減税や国防支出増により、赤字幅が拡大することが確実視されている。

 貿易(経常)赤字とは、国内需要が旺盛のため、国内の生産のみでは間に合わなくて、海外から購入(輸入)している状態を意味する。また、財政赤字とは、日本と同様、歳出が一般歳入である税金では賄えない状態を意味する。いずれも、収入以上に支出するという米国の過剰消費(過小貯蓄)体質がその背景にある。

 こうした状況が長く続いた場合、米ドルに対する信任が薄くなりドルは下落の方向に向かうが、それを防衛するため、また、海外から資金を引き寄せるために金利を引き上げると、金融引締効果により景気が後退し、ドル・株式・債券がそろって暴落するといった超悲観シナリオが双子の赤字に対する警戒論である。

 もし双子の赤字が開発途上国で起きたのであれば、海外の投資家は当該国の経済運営に不安を抱き、投資していた資金を一斉に引揚げてしまうため、通貨は暴落し、経済は破綻してしまうだろう。実際、1997年に、タイから始まったアジア経済危機は、その典型的な例である。

 しかし、米国の場合は、若干事情が異なる。というのは、米国は基軸通貨国であり覇権国でもあることから、双子の赤字がこれだけ大きくなっても、海外から十分資金が調達できるためである。たとえば、日本は、円高阻止のために行なっている円売りドル買い介入によって得た外貨を米国債に投資しているし、このところ躍進著しい中国でも、外貨準備の大半が米国債に回っている。このように、貿易黒字国が、米国の経常赤字及び財政赤字の穴埋めをすることにより、米国の貯蓄不足を補っているのである。また現状、米ドルに代わりうる単一通貨はないため、輪転機で米ドル紙幣を刷れば、(米ドルの価値は若干下落するであろうが)どこの国でも受入れられることから、いくらでも通貨を発行できるというメリットがある。この点は、米国とそれ以外の国々との大きな相違点である。

 さらに重要なことは、米国経済の過剰消費構造が世界経済を支えているという事実である。すでに明らかなように、現在の日本景気が何とか持ち直してきたのは、米国経済復調による輸出増加がそのきっかけである。また、中国は、ここ数年米国向けの製品輸出を増やすことにより、米国にとって最大の輸入相手国となっている。その他のアジア諸国、EUも、米国経済が堅調なことによる恩恵を十分受けているといえるだろう。

 結局、米国経済は決して健全な状態とは言い難いが、米ドルへの信任が得られている限り、経済運営上の問題は少ないと思われる。逆に言えば、米国に代わる牽引役がいないことが、世界経済の将来にとっての不安であるといえよう。

投稿者:常務理事 高橋節郎|投稿日:2004年01月16日|

  • 常務理事 高橋節郎
  • No.0079

会員の皆様へのアンケート調査に当たって

 現在、当研究所では、全会員の皆様に対してアンケート調査を実施しています。このアンケートは、皆様のご意見を拝聴することで、当研究所が提供しているサービスや活動を、よりお役に立てるよう変革していくことを目指しています。

 当研究所が、会員の皆様に提供している情報・サービスには、月報の「SERIまんすりー」、月2回発行される「SERIトピックス」、県内の4,000社以上にのぼる企業の内容を網羅した「静岡県会社要覧」等の出版物のほか、経営セミナーの開催、講演会への講師派遣、通信講座のご紹介、インターネットによる情報提供等があります。今回のアンケートにより、当研究所の多様なサービスについて、ご理解を深めていただければ幸いです。

 ところで、かつて当研究所では、無作為抽出した会員の方々に今回同様のアンケート調査を実施したことがあります。その中で、SERIまんすりー等の出版物を「あまり読んでいない」とされる方々にその理由をお尋ねしたところ、「テーマに興味がわかない」、「情報量が多すぎる」、「内容が難しすぎる」、「文字が小さい」など、様々なご意見が寄せられました。

 当研究所の出版・サービスは、企業経営者や自治体、一般市民など多様な方々を対象としているため、会員の皆様全員のご満足をいただくことは容易
なことではありません。しかし、少しでも皆様のご要望に応えていきたいと思いますので、興味をお持ちのテーマや読みやすい誌面としていくためのご提案等を歓迎しております。また、インターネット全盛の折り、当研究所のサービスや活動の形態を変えていくことも必要かと思います。この点についてもご意見・ご要望を聞かせていただければと思います。

 当研究所は、昭和38年の創立以来、40年が経過し、会員数も18,000名を超えるに至っており、この歴史と会員数の多さは、地域の研究機関としては全国屈指であります。今回のアンケート結果を元に、地域や産業・企業の発展にこれまで以上に貢献できればと考えておりますので、お忙しい中、誠に恐縮に存じますが、ご協力の程よろしくお願い申し上げます。

投稿者:常務理事 高橋節郎|投稿日:2003年10月03日|

  • 常務理事 高橋節郎
  • No.0066

繰延税金資産と銀行の自己資本

 14年度の大手銀行グループの決算をみると、本来業務から得られる業務純益はある程度の水準を確保できたものの、不良債権処理と株式評価損により大幅な最終赤字の計上を余儀なくされた。この中で問題になったのが、繰延税金資産の存在である。

 繰延税金資産は、税務上の利益と会計上の利益とのずれを調整するために設けられたものである。具体的には、銀行が不良債権処理のために有税で貸倒引当金を積むと、会計上は費用計上できるが、税務上は実際に損失が確定するまで費用として認められていない。そのため、税金を前払いした格好となり、その前払い分を繰延税金資産として計上するのである。このように有税で積まれた貸倒引当金は、その後最大5年間に見込まれる納税額の範囲内で繰延税金資産として計上できる。また、これが自己資本に算入できることから、銀行の不良債権処理が進んだという経緯がある。

 ここで問題となるのは、繰延税金資産は、将来戻ってくる税金というより、将来支払う税金が軽減されるという点である。すなわち、繰延税金資産は、翌期以降、税金を支払うだけの課税所得があることを前提としており、仮に将来収益が上がらず、税金の支払がなければ、前払いした税金は戻ってこない。そのため、繰延税金資産を計上するには、資産としての正当性を吟味する必要がある。ちなみに、りそなグループの14年度決算に際しては、監査法人が将来の収益力を厳格に査定した結果、向こう3年分に相当する分しか繰延税金資産を認めなかったために、同グループは資本不足に陥り、公的資金の注入を受けることになった。

 帝国データバンクによれば、銀行の自己資本に占める繰延税金資産の割合は、大手11行では70%、地銀64行では23%、第二地銀では29%に達している。繰延税金資産がこれだけ大きなシェアを占めると、監査法人が同勘定をどの程度認めるかが、当該銀行の命運を分けることになる。

 しかしながら、日本経済は長期にわたり不景気であり、またデフレからの脱却時期も不透明なだけに、いかなる監査法人であっても、当該銀行の将来にわたる収益予想及び繰延税金資産の妥当性を正当に判断するとなると、きわめて難しいのではないだろうか。その一方で、銀行の不良債権処理の促進は、国家的に喫緊のテーマでもあるため、自己査定を一層厳格化して、倒産リスクに見合った引当金を積み、繰延税金資産を計上していくことは当然要請されるものである。

 結局、この問題を解決するには、税務上の取り扱いを会計上の取り扱いに近づけることが妥当な方法といえよう。また、銀行が過去に収めた税金を遡って還付することや、ある決算期に生じた欠損金を、翌期以降の利益と相殺できる期間(現行は5年)を延ばすといった、税制面での包括的な手当てを検討する必要もあると考えられる。

投稿者:常務理事 高橋節郎|投稿日:2003年06月27日|

  • 常務理事 高橋節郎
  • No.0052

インフレターゲット導入を巡って

 3月20日に日本銀行の新総裁に福井俊彦氏が就任した。それを契機として日銀にインフレターゲットの導入を迫る声が大きくなっている。

 インフレターゲットとは、たとえば、2年以内に1から3%のインフレ率を達成するというように、日本銀行が目標とする物価上昇率と達成時期を国民に宣言するものである。もちろん、現在のようにデフレの進展が懸念される状況にあっては、そうした目標を掲げただけで、それが達成できるわけではない。この本質は、日本銀行に、株価指数連動型上場投資信託(ETF)や不動産投資信託(REIT)といった非伝統的な金融資産の購入を認め、市中に出回るおカネの量を増やすことにより、デフレからの脱却を図ろうとするものである。

 こうした価格が変動しやすい資産を日銀が購入すれば、将来、日銀のバランスシート(資産サイド)が劣化する可能性があることは間違いない。それにもかかわらず、こうした提案が学者を中心に提唱されるのは、現状、政府・日銀が取り得る政策が如何に手詰りになっているかを示すものである。すなわち、政府・地方の長期債務が国内総生産(GDP)の140%に達する現状では、財政出動は不可能に近い。一方、金利は限りなくゼロに近づいているため、金利による景気刺激策は取り得ない。さらに、日銀はすでに相当量の国債を買っており、その結果、民間銀行が日銀に保有する当座預金の残高は膨れ上がっているが、それが企業や個人向けの貸出には向かっていない。

 そもそも、インフレターゲット導入の根拠は、インフレはモノに対しておカネの量が多すぎるケース、デフレはモノに対しておカネの量が少な過ぎるケース、というように、インフレ、デフレは通貨供給量によって決定するというマネタリスト的な判断に基づくものと思われる。

 もちろん、こうした金融理論に基づくアプローチは重要であろうが、1つ素朴な疑問として浮かんでくるのは、上述のように、民間銀行の資金繰りに余裕があるにもかかわらず、何故、銀行から企業や個人に、そうしたおカネが回らないかという点である。おそらくこの背景には、長引くデフレや景気低迷により民間の資金需要が低迷していることと、銀行が不良債権処理に追われ本来の役割である資金仲介機能が果たせていない、といった事情があるものと推察される。そのため、こうした状況に改善が見られない限り、インフレターゲット導入の効果も限定的となることが懸念される。

 ところで、デフレを貨幣的な側面ではなく、実態経済面からみると、モノやサービスの供給が需要を上回るという状態を指す。この観点からデフレを解消する方法を考えてみると、単に通貨供給量を増やすだけでなく、日本の供給過剰体質を是正する一方で、民間需要を刺激する対策をとる、というように需給両面からの対応が必要となってこよう。

 日本経済低迷の原因は、循環的な景気停滞というよりも、バブル崩壊による地価や株価の大幅下落といった、かつてないほどの資産デフレに陥っていることから、消費者や企業が、将来に自信が持てなくなっていることにある。とくに、企業部門は、全体としてみると、かつてと異なり、おカネを借りるよりも、債務の返済を優先している状況にある。そのため、政府が、産業空洞化や少子高齢化など、わが国が抱える根本的な課題への対応策や、財政再建への道筋などについての長期展望を示すことにより、民間の将来に対する不安を取り除くというように、民間需要を間接的に刺激していくことも地道なデフレ対策であると思われる。

投稿者:常務理事 高橋節郎|投稿日:2003年03月28日|

  • 常務理事 高橋節郎
  • No.0039

対日直接投資(外国企業の日本進出)の促進を

 一般に、「グローバリゼーション」とか「国際化」というと、日本企業の海外進出や、それに伴う逆輸入、ひいては産業の空洞化等を連想することが多い。しかし、この言葉には、その反対の流れである外国企業の日本進出(対日直接投資または対内直接投資)という側面もある。こうした内なる国際化を促進することは、日本の内需拡大を進め、停滞する日本経済を打開する手段として期待される。

 外国企業の日本への進出・資本参加は、平成10年度から3年連続で件数、金額ともに大幅に増加した(平成13年度は前年比減少)。この結果、対外直接投資(日本企業の海外進出)に対する対日直接投資の割合は、平成9年度には10%にすぎなかったが、平成13年度には55%にまで上昇している。

 しかし、これは毎年の投資額(フロー)を比較したものであり、これまでの累積残高ベースでみると、対外直接投資は対日直接投資のほぼ6倍となっている。主要先進国の同計数(対外・対内直接投資比率)が2倍以下であることを勘案すると、日本企業の海外進出に比べて、外国企業の日本進出は依然として少ないことがわかる。また、各国のGDPに対する対内直接投資残高の割合をみても、主要先進国が20%を上回るのに対して、日本では1%強にとどまる。

 対日直接投資の割合が低い理由として、日本では戦後長きにわたり、自国経済の発展のために、外国資本の進出を制限しつつ、日本企業の国際競争力の強化を図ってきたという歴史的な背景がある。また、最近では、バブル崩壊後の景気低迷、デフレの進展といった景気循環的な要因も大きい。加えて、日本では、地価や電気・通信料金、物流経費等のビジネスコストが高いことや、外国人を受け入れる環境整備ができていないなどの構造的な要因もある。
つまり、これらは、日本市場自体の魅力の無さを物語っている。

 外国企業の日本への進出は、新たな技術や経営ノウハウをわが国にもたらし、また、彼らとの多様な競争を通じて、新しい産業の創出や雇用の拡大が期待でき、ひいては地域経済の活性化、内外価格差の是正等に貢献すると考えられる。最近では、仏ルノー社(ゴーン氏)による日産の再生や、米ウォルマート社による西友への投資などが代表的な例であり、経済に活力を与えるのに外国企業の力を利用することは、合理的な選択肢であるとともにグローバル化の必然的な流れである。

 日本経済は長引く不況により疲弊しており、企業も今一歩元気がないものの、外国企業が進出しやすくなるようなインフラを整備することは、日本のマーケットを魅力あるものにし、最終的には日本企業自身もメリットを受けることにつながる。すなわち、外国企業のためのインフラ整備が、日本経済を活性化するとともに、有力な空洞化対策の1つとなるのである。

 すでに静岡県内においても、平成13年12月末現在で53社の外資系企業が立地し、雇用の増加などを通じて県内経済に貢献しているが、外国企業の誘致を、国のみならず地方レベルでも、より積極的に推進することが望まれよう。

投稿者:常務理事 高橋節郎|投稿日:2002年12月13日|

  • 常務理事 高橋節郎
  • No.0026

変貌するわが国の国際収支構造

 わが国の平成13年度における貿易収支の黒字額は、前年度の11.5兆円から9.0兆円へと2.5兆円の大幅な減少をみた。従来、貿易収支の黒字額が縮小するケースは、景気拡大局面において輸入が増加したためであったが、13年度は、国内景気が低迷し輸入が減少する中、米国発の世界景気の減速により輸出がそれ以上に減少したという点で、これまでにない特徴となっている。また、この背景には、製造業の海外生産シフトにより、輸出増加に限りがある一方、中国をはじめアジアからの製品輸入が活発化する、といった構造的な要因も加わっているものとみられる。

 一方、海外への証券投資や企業の海外進出などの直接投資から生ずる利子・配当収入等から構成される所得収支は、前年度比1.7兆円増加し8.7兆円となった。このため、貿易収支の悪化にもかかわらず、経常収支(貿易・サービス収支、所得収支などの合計)の黒字幅は、前年度の12.4兆円から11.9兆円へ、0.5兆円の減少に留まった。この所得収支の8.7兆円という数字は、貿易収支に匹敵する金額であると同時に、過去最大であり、日本の国際収支構造が、モノ・サービスの輸出依存型から、投資収益の割合が大きい債権大国に移行しつつあることを示している。

 所得収支の黒字拡大の背景には、その源泉となる対外純資産の蓄積がある。
これまで日本は、主に輸出入を通じて貿易黒字を計上、それを海外証券投資や海外進出などの直接投資に振り向け、これが、現在の投資収益をもたらしている。13年末現在、わが国の対外純資産残高は179兆円となり、平成3年以降、11年連続で世界第1位の座を維持している。

 ところで、国際収支の発展段階説によれば、一国の国際収支構造は、対外債務国から対外債権国へ、そして債権国になってからは、その中身が貿易依存型から投資収益依存型に変わっていくとされ、すでに、日本もこれに沿った変遷を遂げている。この説によれば、次の段階は、米国や英国のように、経常収支が赤字となり、それを外国資本で賄うことになる。実際、日本では、今後、人口構成の高齢化に伴う貯蓄の減少や、生産拠点の海外移転、アジア諸国の生産能力の向上などから、貿易黒字の縮小が見込まれるといわれている。

 しかし、日本の場合、米国やかつての英国のような基軸通貨国ではないため、安定的に資本流入を促すだけの国際的な信任が得られるかどうかは疑問である。そのため、現在の貿易黒字の状況を維持していくことが肝要であり、高付加価値で競争力のある商品を生み出し続けることと同時に、将来にわたり安定的な所得収支黒字を維持するため、引続き積極的な投資活動を行っていくことが望まれよう。

投稿者:常務理事 高橋節郎|投稿日:2002年09月06日|

  • 常務理事 高橋節郎
  • No.0013

IT化の進展

 内閣府が本年4月に発表した上場企業を対象にしたアンケート調査(回答数1,202社、除く金融機関)によれば、今後3年間(14?16年度)の設備投資計画額の年平均伸び率は全産業平均で+1.2%(製造業+0.8%、非製造業+1.9%)となり、前年度調査の+3.6%(製造業+3.9%、非製造業+3.0%)を大幅に下回った。
 しかしながら、そのうちIT(情報化)投資の年平均伸び率は、過去3年間(11?13年度)が+8.8%であったのに対して、今後3年間も+7.1%と、鈍化はしているものの依然として高率である。

 当研究所が同時期に行った静岡県内の中堅・中小企業に対するアンケート調査(回答数537社)においては、こうした傾向が特に顕著である。すなわち、14年度の設備投資総額は前年度実績見込比△9.0%となったのに対して、IT投資については、同+13.4%(製造業 +12.1%、非製造業 +15.3%)と堅調な伸びを示している。

 このように、企業の設備投資マインドは低調であるものの、IT部門については、前向きに取組む先が多い。これは、IT投資の内容がハードウエア導入の次のステップとして、ソフトウエアに重点を写しつつあることが、大きな要因としてあげられる。

 一般に、企業経営でITを活用する目的には、コスト削減や在庫圧縮など経営の効率を改善すること、また、新たな経営手法の導入と相まって事業・業務を刷新することの2つがある。そして、今後、ブロードバンドの拡大と携帯電話等のモバイル機器の普及により、電子商取引がさらに活発化すると考えられることや、仕事のやり方を根本的に見直すBPR(業務再構築)やCRM(顧客情報管理)などの手法が、新しいビジネスモデルとして、経営の根幹に関わっていくとみられることから、後者の事業刷新のための戦略的なIT活用は、その重要性を一層増していくと予想される。

 ところで、わが国の全人口に占めるインターネット利用者数は、総務省調査によれば、この1年間で900万人増え、13年末で5,600万人となった。これは全人口の44%に当たるが、この数字(世界第16位)は、米国の59%(同第4位)に遠く及ばず、香港、台湾、シンガポール、韓国といったアジア諸国にも劣後している。

 こうした実態を鑑みて、わが国でも昨年、「e-Japan計画」において、5年以内に世界最先端のIT国家となり、知識創発型社会を目指す、というIT国家基本戦略が作られた。これには、世界最高水準の高度情報通信ネットワークの形成や電子商取引の推進、国と地方とが一体となった電子政府の実現等が謳われている。

 米国発のITバブルは崩壊したが、企業経営や市民生活にITが今以上に浸透していくことは間違いないとみられるだけに、IT化の動向には引き続き注視していく必要がある。


投稿者:常務理事 高橋節郎|投稿日:2002年05月31日|

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