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  • 常務理事 高橋節郎
  • No.0342

「もしドラ」にみる経営の真髄

 ピーター・F・ドラッカーといえば、経営の神様と言われ、その著書「マネジメント」は世界で最も多くの人々から読まれている経営書として名高い。それが、最近、こともあろうに「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(通称「もしドラ」、岩崎夏海氏著)という青春小説で話題になっている。この本は、都立高校の野球部の女子マネージャーが、勘違いから手にしたドラッカーの経営書「マネジメント【エッセンシャル版】」を参考に、野球部の強化に取り組み、甲子園を目指すという青春ストーリーである。

 主人公の川島みなみは、野球部のマネージャーに就くにあたって、まずマネージャーとは何か、という問いを発し、「管理や経営をする人、つまりマネジメントをする人である」と理解する。そして、ドラッカーの本で、マネージャーに要求される根本的な資質を調べたところ、才能や後天的に獲得できるものではなく、「真摯さ」であるという記述を見つけ、それならば自分でも務められるのではないかと共感する。

 マネージャーとして、最初に始めたことは、野球部という組織の定義づけである。企業の場合、顧客を満足させることこそ、企業の使命であり目的となる。それでは、野球部にとって顧客とは誰かということであるが、主人公がいろいろ試行錯誤した結果、野球部員、親、先生、学校、高校野球ファンなどであると結論づけた。そして、彼らが野球部に求めているものは、野球というスポーツを通じて感動を得ることであろうから、野球部の定義は、「顧客に感動を与えるための組織」となった。

 「マネジメント」によれば、企業の目的は顧客の創造であり、その実現のために企業はマーケティングとイノベーションという2つの機能を持っている。マーケティングの主体は顧客であり、顧客は何を買いたいか、また、顧客が価値ありと認め、求めている満足こそがマーケティングの本質であるとする。そのため、主人公は、顧客である野球部員から、彼らの野球に対する現実、欲求、価値などの思いを知ろうと心掛けた。

 一方、企業は、成長と変化を当然とする経済の中で存在しているため、イノベーションにより、新しい価値を打ち立てることが必要である。そして、イノベーション戦略の第1歩は、古いもの、陳腐化したものを計画的かつ体系的に捨てることであることから、主人公は、監督と相談したうえで、「送りバント」と「ボール球を打たせる投球術」という、野球において最も伝統的とされている作戦を、あえて排除することにした。

 さらに、主人公は、野球部員のやる気を引き出す秘訣は何か、各部員の強みをどう生かすか、野球理論に精通した監督の専門性をどう実践に適用するかなどの課題について、ドラッカーの「マネジメント」から答えを導き出し、それを野球部の運営に活用することにより、同チームの実力アップに役立てようとした。

 以上、「もしドラ」について述べてきたが、野球部のような非営利団体についてまで、ドラッカーのいうところの企業の目的である「顧客との感動の共有」を当てはめることには、若干無理があるような気がする。また、「マネジメント」から導き出した実際の具体策が、野球部の活動に必ずしも妥当な手段・方法とは言い難い部分もある。しかし、これはあくまで「マネジメント」のケーススタディーであり、理論の応用編の一つとしてみれば、十分有意義な試みであると思われる。

 いずれにせよ、「マネジメント」という経営書のバイブルを、高校野球に応用するという発想は斬新であり、また体育会系の青春ストーリーとしても内容がしっかりしていることが、この本をベストセラーにした理由であろう。逆に、企業人の立場からは、この小説を読んだ上で、原典である「マネジメント」に戻って、自社の組織運営を再考することこそ重要であろう。その意味で、本書は青春小説という形態をかりたドラッカーの経営実践論であるといえよう。

投稿者:常務理事 高橋節郎|投稿日:2010年06月29日|コメントを書き込む

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