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研究部担当部長 山田慎也 のコラム

  • 研究部担当部長 山田慎也
  • No.0346

上司と部下の信頼関係づくり

 職場の上司と部下との関係がうまくいっているかどうかは、その企業にとって非常に重要な問題だ。なぜなら企業の成果は、突き詰めれば社員一人ひとりのやる気(モチベーション)しだいであり、とくに若手社員のやる気は上司との関係に大きく影響されるからだ。今年、立命館大学の山浦一保准教授と(財)満井就職支援奨学財団と当研究所が共同で行った調査(対象:静岡県内の主要企業600社)では、相互に信頼関係を築けている上司と部下は約半数という結果となった。また、上司または部下のどちらか一方に信頼関係の懸念がある「上司懸念」「部下懸念」のケースはそれぞれ2割弱、そして互いに信頼関係が築けていない「相互懸念」のペアが1割強だった(図表)。
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 それでは、上司と部下が相互に信頼関係を築くためには何が必要なのだろうか。そのヒントを探るために、今回の調査をもとに、信頼関係が築けているグループと築けていないグループのそれぞれの特徴をみてみよう。
 まず、「相互信頼グループ」では、上司による1.部下の能力把握や2.要望・問題の把握ができており、上司から3.明確な指示があり、4.部下への権限委譲も行われており、そして、部下自身も自分の状況を把握してもらい権限委譲されていると感じていることが特徴である。
 一方、「上司懸念グループ」では、部下の上司に対する評価は高いのだが、上司の側で、2.部下の要望・問題の把握ができていないと感じていることが特徴である。
 そして、「部下懸念グループ」では、上司は部下の状況把握などができていると思っているのだが、部下のほうでは、1.自分(部下)の能力をわかってくれず、3.明確な指示もなく、4.仕事を任せてもらえないという思いが強く、これら(能力把握や権限委譲など)の水準は他のどのグループよりも(「相互懸念グループ」よりも)低かった。
 最後に、「相互懸念グループ」では、上司と部下の互いの評価が全体的に低いわけだが、「上司懸念グループ」や「部下懸念グループ」と違って、状況の認識が双方で一致していることが特徴である。

 このうち早急な改善が必要なのは、「部下懸念グループ」であろう。「部下懸念グループ」では、上司自身は「部下の能力把握・権限委譲できている」と考えているため部下の不満はなかなか改善されず、それが一層、部下の上司への信頼感をなくして、部下のやる気が低下している状況が考えられる。
 このグループの特徴から、上司には、部下の能力を的確に把握し、たとえば、部下から業務の改善を持ちかけられたときには思い切って任せてみることなどが期待される。上司としては、部下の仕事上の不十分な点に目が行きがちであろうが、部下ができること・得意なことを認めて部下に伝わる形で評価していくことが、信頼関係を築く最初のポイントといえるだろう。

(SERIまんすりー 2010年7月号特集「職場の上司と部下のよりよい関係づくりのために」参照)

投稿者:研究部担当部長 山田慎也|投稿日:2010年08月13日|コメントを書き込む

  • 研究部担当部長 山田慎也
  • No.0329

今年の最重要課題は、雇用安定

 2010年がスタートしたが、今年の最重要課題は、なんといっても雇用安定だ。鉱工業生産指数など一部の指標で回復の兆しがみられるが、全国の失業率は昨年7月には過去最悪の5.7%を記録し、その後も5%台と高水準で推移している。静岡県も例外ではなく、というよりも全国よりも雇用環境は厳しく、有効求人倍率は、昨年には、昭和38年の調査開始以来、初めて全国水準を下回り、7月には0.38倍と過去最低を記録した。こうした最悪の状況にある雇用が安定しないと消費回復、そして経済回復はありえず、ゆえに今年の最重要課題といえるのだ。

 では、どのような対策を打つべきか。まず、短期的な方策として、職を失った非正規労働者などの再就職支援(生活支援を含む)を継続することはもちろんだが、雇用調整助成金の活用や自治体などによる直接・間接雇用、さらには労働者の余剰・不足を生じている企業間での一時出向など、緊急避難的な雇用捻出・調整によって、少しでも失業者を発生させないようにすることが第一だ。また、今年の新卒の就職状況は非常に厳しいと聞く。学生と採用意欲のある中小企業とのマッチングや新卒偏重の採用方法の見直しなどで、学卒フリーターを増やさないことも重要だろう。

 さらに、長期的な視点も忘れてはならない。静岡県は、輸送用機器などの強い製造業によって支えられ発展してきた。こうした産業構造から雇用を考えたとき、正規労働者以外のフレキシブルな雇用形態は必要である。現在、製造派遣の禁止が議論されているが、本来は派遣制度も含めた非正規労働者の諸問題を改善することで、労働者の雇用と企業の活力を守り・向上させる発想が大切だ。将来的には、流動性(正規雇用以外の多様な働き方)と安定性(充実したセーフティーネット)を兼ね備え、かつ、労働者の長期的なキャリア形成が可能となる新しい雇用システムの構築を目指すべきだろう。

 それを実現する仕組みとして、例えば、非正規社員を含めた労働者ごとの能力・キャリア管理、正規と非正規の中間の雇用形態の創出、公的制度をベースとしつつも民間ビジネスも一翼を担う転職サポート産業の創造などが考えられる。そして、これらの仕組みを、国ではなく、産業構造や立地企業の特性を把握している地域(地方自治体や地元の商工団体・主要企業など)が主導して行うほうが実効性が高いと思われる。今こそ、地域ならではの“不況耐久力がある雇用安定システム”の構築が求められている。

投稿者:研究部担当部長 山田慎也|投稿日:2010年01月05日|コメントを書き込む

  • 研究部担当部長 山田慎也
  • No.0309

若手社員のストレスの感じ方と“やる気”への影響

 最近、企業業績の低迷や雇用調整を含むリストラなどが拡がる中、企業で働く従業員のストレス要因が増加しているものと思われる。当所が行った調査※でも、静岡県内の企業に勤める若手社員の約半数が過大なストレスを抱えていると回答している。企業にとっては、“人”こそ成長の源泉であり、社員のストレスを抑え、“やる気”を高めることは重要な経営課題といえよう。

 さて、このストレスとやる気の関係であるが、前述の若手社員を対象に行った調査結果をみると、ストレス感度(感じ方)によって、仕事に対するやる気への影響度合いが異なることがわかる。ここではそれを紹介しよう。

 まず、若手社員が仕事上のさまざまな場面でどの程度のストレスを感じるかを調べ、その強弱により4つのタイプに分類した。すなわち、希望しない部署への転勤などに強いストレスを感じる「命令忍従タイプ」、多すぎる残業などにストレスを感じる「労働条件タイプ」、目標の未達成や責任が重過ぎることにストレスを感じる「重責負担タイプ」、そして、顧客とのトラブル処理にストレスを感じる「顧客トラブルタイプ」である。

 この4つのストレス感度のタイプとやる気との関係を見ると、「命令忍従タイプ」は、一見やる気が高いように見えるが「非常にやる気がある」とする社員の割合はかなり低い。このタイプはやる気が「ややある」とする回答が最も多いのだが、「あまりない」「まったくない」も少なくないなど、仕事に対する消極性が感じられる。次に「労働条件タイプ」だが、4タイプ中もっともやる気がある社員の割合が低い。長時間労働のストレスは精神疾患などにもつながりやすく、若手社員においても明らかにやる気の低下をもたらしていることがわかる。そして「重責負担タイプ」では、「非常にやる気がある」割合が4タイプ中もっとも高くなっている。これは、本人にやる気があるからこそ目標達成や役割を発揮することに十分責任を感じていると推測され、いわば“良質なストレス”といえる。最後に「顧客トラブルタイプ」だが、逆に言えば他の要因にはそれほどストレスを感じない、ストレス耐性が強い(タフな)タイプの社員だともいえる。このタイプはやる気のある社員の割合が比較的高い。

 このように、一言で若手社員のストレスといってもさまざまな違いが見られる。「労働条件型」は悪性ストレスで、社員のやる気を減少させ、離職やうつ病、過労死など深刻な問題につながる可能性がある。一方、「重責負担型」は良質ストレスで、こうしたストレスが適度の水準であれば、業績向上に貢献し、かつ、社員本人の成長につながる面もあると思われる。そして「命令忍従型」は、社員が積極的・主体的に創意工夫しようとする意欲を減じ、受身型社員を生んでいる可能性がある。これらはあくまで若手社員の特徴を示したものであるが、こうした社員一人ひとりのストレス要因や感じ方をよく認識し、適切な対策を講じることがなにより大切であるといえよう。
(関連リポート:SERIまんすりー2009年7月号「若手社員の職場満足とストレス」)

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※(財)満井就職支援奨学財団と(財)静岡経済研究所の共同調査「仕事の満足感およびストレスに関する調査」(対象:静岡県内の主要企業に勤務する30歳以下の正社員274名。2009年3月実施)

投稿者:研究部担当部長 山田慎也|投稿日:2009年07月06日|コメントを書き込む

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  • No.0294

従業員の定着率がほぼ100%という会社

 新卒従業員の定着率がほぼ100%という、酒造業を営む三重県の中小企業を訪問する機会があった。経営者にその理由を尋ねたところ、従業員が、自ら提案したことが仕事を通じて実現できるからだという。念のため従業員にも同じ質問をしてみたが全く同じ答えが返ってきたから、実際に本当のことなのだろう。詳しく話を聞いていくと、そこには以下の2つの重要な要素があるように思われた。

 第一の要素は、従業員が企業のためによいと思うことを自由に発言できる組織風土である。トップや上司に気兼ねして社員が思ったことが言えないという会社は多いが、それはモチベーションを低下させる要因となる。同社では、情報を共有するためにITを活用した社内ネットワークなどの情報インフラを整備するだけでなく、経営者自ら、従業員が自由に発言することを求める姿勢を強く示している。それは、「知らなかったら仕方がないが、知っていて言わない・やらないのは犯罪である」という経営者の言葉にも表れている。

 第二の要素は、企業の経営方針を明確にして従業員に任せることである。再び経営者の言葉を借りれば、「“戦略”と“戦術”を混同したり、“戦術”ばかり考えている社長が多い」といい、「トップは“戦略”を示す、そして“戦術”は幹部や社員に任せる」ことが大切だという。たとえば、同社では「高付加価値製品に特化し、値段だけで競争する商品(安売り商品)はつくらない」という戦略を経営者が示している。それを受けて、それでもすべての低価格製品からすぐに撤退するのは売上の落ち込みが大きいから、順次、高付加価値製品に切り替えていく、というような戦術を現場の幹部や社員が具体的に決めていくという。このように、経営方針が明確になっている(=戦術を任されている)からこそ、現場のアイディアが出やすくなり、従業員は自由闊達に行動し、イエスマンもいなくなる。

 つまり、自由に発言できる雰囲気があるから従業員は積極的に提案する。さらに、経営方針が明確で従業員に浸透しているから、提案に“はずれ”が少ない。ゆえに、提案は採用されることが多くなり、高い定着率の理由につながっていると分析できる。そして、そのバックボーンは、当然のことながら経営者の姿勢ということになるが、重要なことは同社の経営が、“従業員が自ら動く”組織の創造と一致していることだ。それが、企業にとっても従業員にとっても実り多き経営であることは間違いないだろう。

投稿者:研究部担当部長 山田慎也|投稿日:2009年01月07日|コメントを書き込む

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  • No.0275

若者の定着率を高める人事制度とは

 以前、私が静岡県立大学の西田公昭准教授(社会心理学博士)と共同で行った、従業員の定着率に関する調査で、非常に興味深いデータがあるので紹介する。

 静岡県内の主要企業に対して行ったこの調査では、各企業の従業員の定着率と導入している人事制度について聞いている。この二つのデータを掛け合わせると、定着率と人事制度との相関関係が見えてくる。つまり、定着率を高める(または低下させる)人事制度とはどのようなものかが分かるわけだ。特に入社5年目の若者に対象を絞って分析した結果が、図表(下記添付ファイル)である。

 まず、最も定着率を向上させている人事制度は、「休日を多くするなど労働時間を短くする」である。実は、本人のやる気のある・なしに関わらず、若者が会社を辞めてしまう大きな理由は、「労働時間が長い」「精神的な負担・ストレスが多い」など、仕事上の身体的・精神的な苦痛である。それを解消することが、多くの従業員にとって働き続ける意欲を向上させることがわかる。

 二番目に効果的な人事制度は、「自己啓発や能力開発を支援する仕組み」である。特に、やる気がある従業員は、自分が仕事を通じて成長することを強く希望する傾向がある。企業がその気持ちに応えられないと、従業員は「この会社では成長できない、このままではだめだ」と思い、転職を考えるようになる。

 三番目は、「社内の人間関係を良好に保つ」である。若者は経験年数が少ないため、能力不足や本人の興味と仕事の内容とのギャップなど、やる気が低下してしまう理由はいろいろとあるが、このとき、社内に相談相手がいない場合、離職につながりやすい。社内の人間関係が良好ならば、やる気が低下したときでも自分の役割や“居場所”が確認できるため、働き続けることができる。

 さて、逆に定着率を低下させている人事制度は何か。それは「成果主義など成果報酬を支払う仕組み」である。最近、いろいろな問題点が指摘されている成果主義の人事制度であるが、特に若者に関してはマイナスの影響が強く出ているという結果となった。それは、前述した定着率を高める人事制度の内容と、反対の性質を含んでいるからである。つまり、成果による評価は、特に経験が少ない若者に余計にストレスが掛かる、常に短期的な成果が求められ能力開発など長期的な成長がしにくい、先輩も含めて多くの社員が個人主義に走りがちになり社内の人間関係がギクシャクする、といった、若者が辞めてしまう要素を数多く含んでいるといえる。

 ここに示した人事制度はあくまでもカテゴリーであって、各企業の仕事の内容や制度の運用の仕方によってその効果は大きく異なるだろう。つまり、この調査結果は、統計処理したデータであり全体の傾向を示すに過ぎない。しかし、だからこそ、背景にある若年従業員のやる気や定着意欲を向上させたり、低下させたりする共通要因をよく表しているともいえる。若者の定着率向上のために自社の人事制度を検討する際には、チェック項目として参考になるだろう。

 図表.pdf

投稿者:研究部担当部長 山田慎也|投稿日:2008年07月17日|コメントを書き込む

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  • No.0255

障がい者雇用の現場で、企業の本質的な役割を思う

 学校で使うチョークなどを作っている日本理化学工業株式会社という会社が、神奈川県川崎市にある。この会社の驚くべきことは、従業員75名のうち7割以上の55名が知的障がい者であるということだ。工場に入ると、全員が無駄話もせず、粛々と慣れた手つきで作業をしている。ベルトコンベアの動きに遅れることもなく、我々見学者に笑顔を見せたり、挨拶したりしながら、生き生きと仕事をしている。ここは公的施設ではなく、純粋な民間企業である。しっかりと企業経営として成り立っているのである。

 大山社長から、障がい者を雇用するようになったきっかけを伺った。「昭和35年、養護学校の先生が飛び込みで卒業見込者を就職させて欲しいと会社にみえられた。しかし、能力的にとても無理だと思い門前払いしてしまった。ところが、先生はあきらめきれずにまた来社されたが再度断り、さらに3度目に来たときに先生から、“この子は15歳で学校を卒業するが、会社で雇ってもらえないと施設に入ることになる。そうすると一生、社会に出て働くことを知らずに人生を終えることになってしまう。だから、実習でもいいから働かせて欲しい”と頼まれて、やっと2名の知的障がい者を実習生として受け入れた。しかし、この二人が、周囲の従業員の助けを必要としながらも、昼休みのベルが鳴っても休憩しないで一生懸命に仕事をしている。その姿を見て、何とかしなければいけないと思い、正規雇用に踏み切った」という。

 同社の生産現場には、障がい者が働きやすくなるようなさまざまな工夫が施されている。言葉で説明しても作業内容が理解できない場合は、部品や材料を色で分けたら出来るようになった。また、時間が分からない場合は、砂時計を使ったら出来るようになった。つまり、作業内容を作業者の能力に合わせることでそれぞれが役割を果たせるようになっているのだ。さらに、障がい者の中で人に教えることが出来る“親切な人”をリーダーにすることで、生産ラインの全員が知的障がい者でも生産できるようになったという。

 この会社をみていると、障がい者であろうが健常者であろうが、人が持っている能力を経営の工夫によって社会のために活用できるようにすることが、企業の本質的な役割もしくは使命であると感じざるを得ない。この会社は中小企業でも、大きな社会的役割を果たしている。多くの企業がこうした経営理念を持ち、また、障がい者雇用の意味や可能性について理解を深めてもらいたいと強く思う。

投稿者:研究部担当部長 山田慎也|投稿日:2008年02月06日|

  • 研究部担当部長 山田慎也
  • No.0237

指定管理者制度の委託料(指定管理料)の決め方

 地方自治体の財政状況が厳しくなる中で、近年、公共施設の建設や維持管理を行う際に、PFI※1や指定管理者制度※2といった、民間の資金やノウハウを活用する手法が検討されるケースが非常に多くなっている。こうした検討作業の中で問題となるのが、公共施設の維持管理費として自治体が民間事業者に支払う“委託料”の決め方である。

 たとえば、既存の公共施設に指定管理者制度を導入した場合、その多くは、利用者から徴収する利用料だけで施設の維持管理費を賄うことはできず(また、利用料を徴収しない施設も多く)、足りない分は自治体が委託料(指定管理料)として民間事業者に支払うことになる。

 自治体としては、できるだけ財政支出を削減したいところだが、委託料を低くしすぎると、民間事業者は運営に十分なコストがかけられなくなり、公共サービスの低下などのリスクが発生する。逆に、委託料が高すぎると民間事業者の利益が多くなるため、住民からの批判が予想される。

 この委託料の水準をどう考えるかであるが、まず、現在の維持管理費を詳細に分析して、評価基準となる財政支出コストを算出する。一方、民間事業者の収支構造から施設を維持管理していくうえで必要となる事業費(採算ライン)を推測して、民間に委託した場合の想定委託料を算出する。この金額が先の財政支出コストを下回っていれば、民間委託により財政コストが縮減されるわけだが、この想定委託料が自治体側の“予定価格”となる。

 さらに重要なポイントは、民間事業者の経営努力により予定以上の利益が発生した場合を想定しておくことである。これは、公共施設の内容や委託業務範囲によって異なるが、たとえば利益が経常的なコスト削減により生み出されたものであれば、発生利益を官民で半々に配分することも考えられる。つまり、利益額の半分は民間事業者の利益とし、半分は委託料を削減する原資とする。

 また、利益が利用収入の増加により生み出されたものであれば、施設に対する再投資の官民における負担割合を考慮して利益配分することも考えられる。一般的に利益は、その事業を拡大するために再投資され、それが顧客を増加させ、さらなる利益を生み出すことが理想である。つまり、官民において、集客促進イベントや施設の修繕・拡張などの再投資を業務範囲とする側に、利益をより多く配分する仕組みにしておくことが望ましいということになる。

 ここで述べたことは一般論であり、委託料については、公共施設のサービスの性質、自治体の財政状況、指定管理者の経営ノウハウ、施設の集客力など、さまざまな要素を考慮して検討すべき問題であることはいうまでもない。しかし、どの公共施設においても、収支構造を十分検証・分析し、透明性の高い適切な管理費水準を導き出すことは、行政における公共サービスの費用対効果を測る上で欠かせないプロセスといえよう。


※1 PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ):民間資金を活用した社会資本整備
※2 指定管理者制度:公の施設の管理について、これまで公的団体のみ受託可能であったものが、民間企業も含めて指定を受けることを可能とした制度

投稿者:研究部担当部長 山田慎也|投稿日:2007年08月03日|

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  • No.0227

なぜ若者は会社を辞めてしまうのか

 なぜ若者は会社を辞めてしまうのか。企業の担当者からは、「我慢がない。すぐ辞める」「客先で怒られるなど嫌な事があると、すぐに転職を考える」などの声を聞く。要するに最近の若者は、仕事に対する“やる気”(モチベーション)が低く、働き続けようとする意思が弱いというわけだ。はたして実態はどうなのか。

 当研究所では、静岡県立大学の西田公昭助教授(社会心理学博士)と共同で、静岡県内の主要企業に勤務する従業員3,000人(回答者数867人、回答率28.9%)を対象に「仕事の満足度に関する調査」を行った。その結果、従業員の“やる気”と定着意欲との関係について、非常に興味深いことが分かった。

 従業員に、「仕事に対する“やる気”の有無」と「現在の会社で働きたいか辞めたいか」をたずねたところ、29歳以下の従業員では、「やる気があって、現在の会社で働きたい」という人は全体の32%しかなく、「やる気がなくて、辞めたい」人が24%もいることが分かった。これは、先に紹介した企業の見方を裏付けている。ただし、実はこの他に、「やる気があるにもかかわらず辞めたい」人が12%存在し、そして「やる気がないにもかかわらず、現在の会社で働き続けたい」人が32%もいるのだ。

 この結果から、(「やる気はないが、働きたい」人が3割もいることも非常に大きな問題だが、まずは)、「なぜ若者が辞めてしまうのか」を考えた場合、「やる気がない」人の辞めたい理由と、「やる気がある」人の辞めたい理由は異なることが推測され、それぞれ分けて考える必要があることがわかる。

 実際に、今回の調査結果を詳しく分析してみると、両者には明らかな違いがみられた。詳細は当所発刊SERIまんすりー3月号の特集「若年従業員の定着率をいかに高めるか」でご確認いただきたいが、要約すると、「やる気を失ってやめたい」従業員は、“仕事の内容自体に大きな不満を持ち、かつ、上司など社内の人と信頼関係が築けていない”という傾向があり、「やる気があるのにもかかわらず辞めたい」従業員は、“自分のした仕事が十分評価されず、かつ、仕事を通じて自分が成長していない”という思いが強く、それが辞めたい理由になっているのだ。

 このように、若年従業員の離職要因はモチベーションの有無でその性質が異なっている。企業としては、最近の景気回復による人手不足に加え、若年人口の減少で長期的にも人材を確保することが難しくなっている中で、従業員の動機づけや定着率の向上のための、効果的な方策を真剣に考えるべき時期にきているといえよう。

投稿者:研究部担当部長 山田慎也|投稿日:2007年04月16日|

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  • No.0217

仕事上の満足感とモチベーション(やる気)への影響

 従業員は仕事上のさまざまな出来事から、満足だと感じたり不満足だと感じたりしているが、そうした満足・不満足感が従業員のモチベーション(やる気)にどう影響しているのであろうか。当然、満足要因はやる気を高め、不満要因はやる気を低下させるのであるが、興味深いことに、やる気に大きく影響する満足(不満)要因と、ほとんどやる気に影響しない満足(不満)要因があることがわかった。

 当研究所が、静岡県立大学の西田公昭助教授(社会心理学博士)と共同で実施した、静岡県内の主要企業に勤務する従業員3,000人(回答者数822人、回答率27.4%)を対象にした「仕事の満足度に関する調査」によると、「非常にやる気のある」従業員は、仕事上の出来事の59%が満足要因で満たされており、一方、「やる気のない」従業員の満足要因はたったの9%で(仕事上の出来事のほとんどが不満要因であり)、“満足要因がやる気を生む”という当然のことがまず確認された。

 しかし、詳細に分析してみると、満足要因では、「自分が重要だと思う仕事をやり遂げた」満足度は、やる気がある人もない人もそれほど変らないのに、「会社にとって重要な仕事をやり遂げた」ときや「会社から重要な仕事を任された」ときなどの満足度は、やる気のない従業員が極端に低い。つまり、会社や組織にとって重要な仕事に対する「達成」「承認」「責任」に関する満足度が低いことが、従業員のやる気を失わせている原因といえる。

 また、不満要因では、「不適切な仕事の割当・配分」「上司の能力不足」「福利厚生の不備」「職場環境」そして「給与」などに不満だと思う人の割合は、実は、やる気がある人もない人も極端な違いはないのである。不満要因の大きな違いは、やる気のない従業員は、「会社の方針」や「上司の命令」で「自分の興味がある仕事ができない」(興味のない仕事をやらされている)という不満が圧倒的に多いことである。さらに、「精神的な負担・ストレスが大きい」「労働時間が長い」「上司との性格が合わない」なども、やる気のない人はやる気のある人に比べてその割合が非常に高くなっている。つまり、本人の希望と仕事の内容が合っていないことと、それを改善できるような会社や上司とのコミュニケーションがとれていないこと、そして、派生的に精神的・肉体的に苦痛であること、がやる気を失う根本原因といえよう。

 確かに、給与も含めた労働条件の改善は重要である。ただし、今回の調査では、モチベーションを発生させる原動力が、別のところにあることを示している。どうも最近うちの会社の従業員のやる気が低下してきたと感じたときは、「会社の業績への貢献が実感できる仕事を割り当てているか」「上司個人ではなく会社として従業員の仕事を評価しているか」「能力の向上にともなう権限委譲を行っているか」、そして「仕事の内容が本人の希望と合っているか、合っていない場合は従業員と十分なコミュニケーションを取り、改善を図ろうとしているか」など、チェックしてみてはいかがだろうか。

投稿者:研究部担当部長 山田慎也|投稿日:2006年12月20日|

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  • No.0206

社員をいかにやる気にさせ定着させるか

 労働力人口の減少やニートと呼ばれる“働かない(働けない)”若者の増加に加え、最近の景気回復による労働市場の逼迫、さらには新入社員の定着率の低下など、企業にとって必要とする人材を確保することが非常に困難な状況になりつつある。特に人的要素が決定的に重要である中小企業においては、採用もさることながら、入社した社員をいかにやる気にさせ(動機づけ)、能力を最大限発揮させ、定着してもらうかが、経営上の最重要課題となろう。

 F.ハーズバーグの「動機づけ-衛生理論」によれば、社員の仕事に対する満足・不満足は、別々の要因から生じるとされ、社員の本当のやる気を引き出すには、不満の解消よりも、満足の増大が必要である主張している。ここで言う満足要因(動機づけ要因)とは、すなわち達成感、仕事そのものに対する興味、成果に対する承認、責任ある仕事の割当、成長感などであり、いわば人間的な側面といえる。一方、不満足要因(衛生要因)は、会社の政策、上司の管理、社内の対人関係、労働条件、給与、身分の保証などで、これらが不十分であるとき社員は不満だと感じる場合が多く、いわば環境からの苦痛を回避しようとする動物的な側面といえる。

 つまり彼の主張は、いくら労働環境を整え給与を高くしても、それは不満の解消になるだけであり、社員の自主的なやる気を引き出すには、(不満の解消に加えて)達成感や本人が成長していると感じられるような仕事ができる状態や仕組みをつくることにより、社員の満足を増大させることが必要であるということである。

 昨今、仕事の成果に応じて報酬を支払う成果主義の人事制度を導入する企業が多いが、大手企業でも成功しているとは言いがたい状況であり、中小企業でも若年者の定着率の向上には貢献していない(むしろ実力主義の企業は定着率が悪い)というデータもあるが、給与・報酬は不満解消要素であり、それだけでは社員を動機づけることはできないという彼の理論を裏付けているようだ。企業における人材の重要性が増す中、社員を動機づけ定着させる効果的な方策が求められている。

投稿者:研究部担当部長 山田慎也|投稿日:2006年09月04日|

  • 研究部担当部長 山田慎也
  • No.0185

“指定管理者制度”の導入時に、公共の役割の再確認を

 「民間の方が効率的・効果的にできる公共サービスは、できるだけ民間に任せていく」という政府の“骨太の方針”のもと、平成15年9月に地方自治法が一部改正され、“指定管理者制度”が誕生した。この指定管理者制度というのは、簡単に言えば、これまで行政が行っていた公共施設の管理を、民間事業者に任せようというもので、効率的な運営による経費の節減を主な狙いとしている。

 この新制度への移行は、今年の9月までという期限があり、それまでに各自治体では、新制度を導入するか、自ら直営で管理するか、を決めなければならない。こうした事情から、最近、新制度を導入する公共施設が急増している。静岡県内の自治体においても、すでに導入済みが224施設、今年の4月に導入予定が689施設(静岡新聞)と、新制度への移行が本格化している。静岡県を例にとってみると、「富士山こどもの国」や「小笠山総合運動公園(通称エコパ)」などの、億単位の年間管理費を必要とする大型施設も対象となっている。

 ただ、この指定管理者制度も、全国の実態をよくみてみると、まだまだ“発展途上”であるといえる。その理由の一つは、移行期限が迫る中、十分な検討の時間がなく、とりあえず既存の管理者を新制度の管理者として指定してしまった例が相当数あると思われること。総務省の調べでは、実際に管理を委託された管理者の57%が公共団体・公共的団体であり、株式会社・有限会社は13%しかないという結果だった。

 新制度が抱える課題の2つ目は、民間企業に委託した場合の、民間企業に支払う委託料の決め方である。委託料が多ければ民間企業の利益が多くなり住民からの批判が予想され、逆に低すぎると運営に十分なコストがかけられなくなり、公共サービスの低下や、極端な場合は、民間企業の撤退や倒産により、公共サービスがストップしてしまう可能性がある。この委託料の適切な設定方法をどうするかが今後の課題である。

 そして、3つ目は、民間委託による公共的なリスクを検討する仕組みである。なんでもかんでも民間に委託するというのはむしろ間違いで、一つひとつの公共サービスにおいて、民間に委託する場合のメリットと同時に、民間企業が管理した場合に発生する可能性があるリスク(公共サービスの質の低下や停止、不正・違法行為が発生した場合の損害など)を想定し、それらも含めて民間委託の可否を決定していく必要がある。つまり、これまで当然のこととして考えられていた、公共の役割の重要性を再確認し、コストも含めて明確に説明できるようにすることが、適正な民間委託の前提となる。こうした課題を改善し、官民および住民が納得できる制度に育てていくことが重要であると考える。

静岡県の主な指定管理者制度の導入施設

 状況    施設名             指定管理者
 導入済  水産試験場体験学習施設     日本海洋調査株式会社
 導入済  富士山こどもの国        小泉アフリカ・ライオン・サファリ株式会社
 導入済  県立水泳場           県体育協会グループ
 導入済  富士水泳場           静岡ビル保善株式会社
 導入済  武道館             県体育協会グループ
 指定済  コンベンションアーツセンター  (財)静岡県文化財団
 指定済  舞台芸術公園          (財)静岡県舞台芸術センター
 指定済  森林公園森の家施設       東海ビル管理株式会社
 指定済  産業経済会館          静岡ビル保善株式会社
 指定済  静浦・焼津・網代ほか漁港施設  各漁業協同組合
 指定済  草薙総合運動場         県体育協会グループ
 指定済  小笠山総合運動公園       静岡県サッカー協会グループ
 指定済  吉田公園            特定非営利活動法人しずかちゃん

投稿者:研究部担当部長 山田慎也|投稿日:2006年01月27日|

  • 研究部担当部長 山田慎也
  • No.0180

“コンセプト”を示すことから始まる経営

 先日、静岡県西部地域に本社がある情報関連企業に訪問したところ、応接室の机の上に名刺大の小さな冊子が置いてあった。手にとってみると、小さいながらも20ページ以上にわたって、その会社の「経営理念」「経営指針」「ビジョン」や「理想とする社員像」、さらに「経営目標数値」や取り組むべき「プロジェクト」などが書かれていた。

 社長さんとの面談が始まり、早速、この冊子のことを聞いてみた。社長さん曰く、「経営者の一番の仕事は、社員にとってやりがいのある会社を作ることです。それには、まず、会社の“コンセプト”を明確に示すこと、それも経営トップ自身の言葉で示すことが重要なんです」と。その一つが、この冊子とのこと。なるほど、経営指針の一番目に、『会社の価値観が明確になっており、社員全員がそれを共感、共有し、その実現を目指している会社になろう』と書かれている。

 「それで、どんな変化がありましたか」と質問すると、いま働いている社員の意識が少しずつ変化してきたことと、会社の考え方に共感する社員が入社するようになった、という答がかえってきた。冊子をよく見ると、裏表紙に「外部開示・可」と書いてある。つまり、会社の考え方を広く外部にも公表しているのだ。社長曰く、「会社の方針が分かっている、やる気のある社員が入ってくる。従業員の定着率が向上する。仕事の質が向上する。そして、やりがいのある会社になっていくんです」。

 まず経営者が“コンセプト”を示す、共感する社員が集まる、いい仕事ができる、そして、売上や利益が上がる。企業の成長の源泉は、やはりこういうことなのだろう。近年、資本の論理を振りかざした企業買収が盛んだが、社内にどれだけ共感の輪が広がっているか…。“コンセプト”とは、「全体を貫く統一的な視点や考え方」(広辞苑)のこと。言葉は、経営理念でもビジョンでもいいが、こうした“思い”を大切にすることが、長期にわたって色あせない本物の業績をつくる第一歩ではないだろうか。

投稿者:研究部担当部長 山田慎也|投稿日:2005年12月09日|

  • 研究部担当部長 山田慎也
  • No.0161

産学共同研究における特許使用料の問題

 最近、産学連携の重要性が叫ばれているが、平成16年度の静岡県内の主要な大学と企業との共同研究は294件(当所調べ)にのぼり、前年比+100件と急増している。こうした取り組みにより、新しい製品が開発され、新事業・新産業が次々と創出されることが期待されているが、共同研究を行っている大学と企業の現場をみると、解決しなければならない問題がいくつか出てきている。その1つが、特許の問題である。

 一般的に、共同研究により新規性の高い研究成果が得られると、大学と企業の共同出願により特許を取得するとともに、企業側に独占使用権を認めるパターンが多い。その際、企業は大学に特許使用料を支払うことになるが、その決め方に問題があり、企業から不満の声があがっている。

 1つめの不満は、使用料が高すぎる、ということだ。共同研究を経験した企業に聞いたところ、特許を取得した製品の売上高の1、2%に設定される場合があるという。もともと利益率が数%の製品では、企業側の利益のかなりの部分が特許料で消えてしまう水準である。

 2つめの不満は、特許の対象や決め方が明確ではない、ということだ。企業側の言い分では、「製品のすべてを大学が開発したわけではないのに、その製品の売上高の何%という形で特許料が決められていることが問題である」というのだ。たとえば、企業が開発した製品をベースとして、共同研究により新しい機能が付加された場合、大学が貢献した部分(=付加された機能による売上の増加分)に応じて使用料を決めるべきだということになる。

 実は、こうした共同研究による特許は、これまでは企業が単独で出願・所有し、その対価という意味で企業が大学に寄附金を支払うというケースが一般的だった。それが、特に国立大学の独立行政法人化により知的財産の管理を厳格に行うようになり、共同出願により特許使用料を徴収する方式に変わってきていることが、この問題の背景にあるようだ。

 本来、大学に所属すべき知的財産を明確にし、有効に活用することは必要である。しかし、それが行き過ぎると、企業にとって共同研究がやりにくいものになってしまうことになる。共同特許とする場合、どの機能に対する特許なのかをできるだけ明確にし、大学と企業、双方が納得できる方法と水準で使用料を決めることが重要である。また、そうした取り決めを契約書に明記にするなど、後々トラブルがないようにすべきである。こうしたことは手間がかかるが、丁寧に仕組みを作っていくことが、長期的にみれば、産学連携を活発化させる非常に重要な条件といえるだろう。

投稿者:研究部担当部長 山田慎也|投稿日:2005年07月20日|

  • 研究部担当部長 山田慎也
  • No.0144

急拡大が予測される“トクホ”市場

 今、“トクホ”市場が急速に拡大している。
 トクホとは、厚生労働省が認可する「特定保健用食品」のことで、動物やヒトへの試験で効果や安全性が科学的に証明され、「血圧を正常に保つことを助ける」といった健康への効用を表示することが認められた食品である。商品のパッケージには専用のマークが付けられており(図表1)、現在、認可を受けた商品数は約480品目にも上る。

 このトクホの市場規模は、(財)日本健康・栄養食品協会の推計によれば、2003年の時点で約5,700億円に達しており(図表2)、1997年から2003年の6年間で約4.3倍に拡大していることから、現時点では7,000億円程度になると推測される。需要が高まっている健康食品のなかでも、いわば国がお墨付きを与えたトクホ商品は、今後も拡大することが予想される。

 一方、食品メーカーからすればできるだけ多くの商品でトクホを取りたいところであるが、実は、トクホの承認には、臨床試験などを行うことから、1件で数千万円以上のコストがかかる。さらに、トクホを取ったからといって、医薬品と違いもともと商品単価が低い食品なので、価格を大幅に上げることはできない。ゆえに、トクホ食品を開発できるのは、資本力があり、1つの商品を全国向けに大量販売している大手食品メーカーが中心になる。中小企業では、なかなか取組むのが難しいのが現状だ。

 そうした中、現在、厚生労働省では、審査基準を緩和した「条件付きトクホ」の導入を検討している。これは、実績のある食品や成分については、個別の審査なしで認めようというもので(規格基準型特保)、食品メーカーにとっては、効用の表示は限定的になるが、開発コストの大幅な低減が可能になる。消費者におけるトクホの認知度も次第に高まっていく中で、条件付きトクホが中小食品メーカーにとってビジネスチャンスの拡大となるか、注目したい。

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投稿者:研究部担当部長 山田慎也|投稿日:2005年03月16日|

  • 研究部担当部長 山田慎也
  • No.0135

数だけでなく、中身も拡張する“フリーター”

 正社員ではなく、パートやアルバイトとして働く、いわゆる“フリーター”が増加している。全国のフリーター数は417万人と、最近10年間で200万人以上増えて、若年人口全体の約2割を占めるまでになった(内閣府推計)。ちなみに、当所が静岡県内のフリーター数について推計したところ約9.2万人であった。

 そもそもこのフリーターの定義はあいまいである。最近では、働くこともしないニート(NEET)と呼ばれる若年層が問題になっているが、フリーターは働いている、もしくは働く意欲がある若者である。ただ、以前は自分の意志でフリーターになることが新しい生き方として注目されたが、景気低迷期に、正社員になりたくてもなれないフリーターが増えたと考えられ、加えて、派遣社員や契約社員も含まれており、フリーターの中身も相当変わってきている。

 さらに、最近では、インディペンデント・コントラクター(IC=独立業務請負人)と呼ばれる働き方も登場。個人として、新規事業開発やマーケティングなど専門性の高い仕事を複数の企業から受託することが特徴で、比較的単純な事務を請け負う派遣労働とは異なる(図参照、日本経済新聞 平成16年12月6日)。これをフリーターと呼ぶのかどうか。そろそろ正規社員と非正規社員という区分自体を考え直さなければならないのではないか。

 こうした雇用形態の多様化が雇用の流動化を進める中で、個人にとっては働き方の選択肢が広がると同時に、どんな仕事ができるのかがシビアに問われる時代になってきた。一方、企業にとっては、そうした個々人の能力を組み合わせて、付加価値を創出するための最適な組織をいかにつくるかが問われているといえよう。

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投稿者:研究部担当部長 山田慎也|投稿日:2004年12月28日|

  • 研究部担当部長 山田慎也
  • No.0124

事業の成功には、経営者の“ロマン”が不可欠

 先日、静岡県内でホテルを経営している企業を訪問した際、ホテル事業を成功させるためには、経営者の“ロマン”が不可欠である、という話を伺った。この場合の”ロマン”とは、こんなホテルにしたいという「夢」「理想」「ビジョン」のこと。ホテルを建設する場合は、まず、経営者が、どんな客にどんなふうに快く過ごしてもらうのか、を明確にすることが大前提であり、その“ロマン”を実現させるための立地、建物、設備、接客を真剣に考えることが重要で、採算性はその後に検討するという。

 経営環境の変化が激しい昨今、なかなか経営ビジョンを明確にすることは難しいが、長期的な視点からみても、いかに“ロマン”が大切か、ホテル事業は教えてくれる。ホテルは、開業した直後から、建物・設備などの劣化により顧客へのサービスの価値が減少を始める(図参照)。接客サービスの向上やイベントなど、運営の工夫により価値を創造するとともに、修繕やリニューアル投資などにより建物・設備の価値減少を補っていくことが必要となる。その時、“ロマン”が明確なホテルとそうでないホテルとでは、その価値の減少率が違ってくる。つまり、“ロマン”のあるホテルでは、その「理想」に沿った適切な接客や修繕、リニューアルが行われ、客に喜ばれリピータ客を増やしていく。一方、“ロマン”がないホテルではそれらがバラバラになり資産価値の減少を早める。そして、その格差は年々拡大していくことになる。

 ホテル事業における建物・設備を、一般企業における組織体制やマーケティング手法などの経営システムに置き換えて考えてみると、こうした考え方は経営全般にもあてはまるのではないか。経営ビジョンを明確にすることは、時間とともに劣化する企業価値を維持・増加させていくために不可欠なことであるといえよう。

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投稿者:研究部担当部長 山田慎也|投稿日:2004年09月10日|

  • 研究部担当部長 山田慎也
  • No.0111

“地域振興型PFI”の模索

 全国の地方自治体でPFI(民間資金を活用した社会資本整備)の導入が進むにつれて、PFIを導入することによる地域経済への影響について議論されることが多くなっている。というのも、現時点では、PFI事業の多くは大手企業グループが受注しており、地元企業中心のグループが受注する例が少ないからだ。つまり、従来、地元に発注されていた公共事業が外に流れてしまうのでは、地域経済にとって必ずしもプラスではないのではないか、というわけである。

 しかし、だからといって財政が悪化する中、効率的な社会資本整備が期待できるPFIを検討すらしないというのも問題であり、要は、行政経営を健全化し、かつ、地域経済の発展にも役立つ、“地域振興型PFI”をいかに確立するか、が重要な課題となっているといえよう。

 この問題のポイントは、PFI導入のメリットをどのように評価するのか、ということだ。PFIでは、公共事業(施設の建設・運営)にかかるコストを、事業を受託した民間企業(SPC=特別目的会社)に支払う。自治体側のメリットは、支払金額が従来型の公共事業に比べてPFIの方が少なくなることにあるが、その支払金額は、SPCから自治体に支払われる(戻ってくる)税金も考慮して計算されている。

 しかし、もう一歩踏み込んで考えると、現実には、SPCはさらに、設計費、建設費、運営費、借入利息、配当などを事業会社に支払うわけであり、こうした資金の流れがどれだけ地域経済に再投資されるのかが重要となる。さらに言えば、地域内での雇用および所得機会の創出、経済取引の増加、地元企業の成長(事業ノウハウや資金力の向上)など、さまざまな経済波及効果が考えられる。これらも総合的に地方自治体のメリットとして含めて考える必要があるだろう。

 単に地元企業だからというだけで優遇するような仕組みは公平性の点で避けなければならない。しかし、地域への経済波及効果については、適正な方法により算定・評価されるべきものであると考える。現在、実施されているPFIでは、民間事業者の提案を審査する基準の中に「地域経済への配慮」といった項目を設けて、評価点を加算する試みも行われている。公平性・透明性を確保した“地域振興型PFI”を模索していくことが、今後の重要な課題といえよう。

投稿者:研究部担当部長 山田慎也|投稿日:2004年06月04日|

  • 研究部担当部長 山田慎也
  • No.0098

人口減少と企業経営

 わが国の人口は、2006年にピークの1億2,774万人に達した後、減少に向かうと推計されている。戦後、一貫して増加してきた人口が減少に転じるという、誰も体験していない社会現象が目前に迫っているわけで、生産・消費など、経済活動のすべての仕組みの前提条件が反転する意味は大きい。

 企業経営について考えてみても、これまでの市場拡大・売上増加を前提とした経営から、市場縮小・売上減少をベースとした経営へと、発想を大きく転換する必要がある。

 例えば、市場拡大期には、赤字事業があっても他の成長市場で売上を伸ばすことでカバーすることができたが、市場全体が縮小する時代には売上を伸ばしにくくなるため、どの事業においても、まず赤字を出さないことが重要となる。つまり、売上拡大重視から利益確保重視への姿勢転換である。同様に、市場の拡大を見越した先行投資は、これまで以上にリスクが大きくなると考えられるし、新卒者の採用・長期育成といった終身雇用制度も、仕組みの見直しが必要になるかもしれない。

 また、人口減少期においても、新商品の開発などによる新市場の創出はあるだろうが、仮にそうした市場があっても市場全体が縮小傾向にある中では、拡大する市場は非常に貴重であり、数多くの企業がその新市場に群がり、今以上に急速に競争相手が増加することが予想される。つまり、すぐに過当競争の状態となり、製品(新市場)のライフサイクルが短期化する可能性がある。

 さらに、消費者自体が減少してしまうわけであるから、マス・マーケティングで新規顧客の獲得を目指すというよりは、顧客一人一人を大切にするワン・トゥー・ワン・マーケティングを重視する傾向が強まるだろう。企業にとっては、既存顧客の個別のニーズに対応することで、顧客一人当たりの獲得利益を向上させる取り組みが大切となろう。

 今後は、少なくとも人口増加による市場拡大圧力がなくなってしまうわけであるから、企業にとっては、市場を作り、かつ、利益を確保するための知恵が、これまで以上に求められる時代になるといえる。

投稿者:研究部担当部長 山田慎也|投稿日:2004年03月12日|

  • 研究部担当部長 山田慎也
  • No.0085

増える学校PFI、どこまで民間に任せるか

 民間資金を活用した社会資本整備の手法であるPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)の制度が創設されてから4年、国および数多くの地方自治体において、主要な公共事業にPFIを導入する動きが広まっている。

 これまで正式にPFIの導入を公表した事業数は、全国で115件。事業分野別に見てみると、「教育・文化関連施設」が39件と最も多く(グラフ参照)、その内訳は、「小中学校」7件、「高校」1件(静岡県が整備する西遠地区新構想高校)、「大学」12件で、学校整備にPFIを活用する自治体が増えている。

 これらの学校関係のPFIで、民間に委託している業務は、校舎などの建設と施設の維持・管理、補修であり、運営、つまり教育そのものは公共が行うことになっている。それは、特に小中学校などの義務教育は、国民の誰もが平等に教育を受けられる権利を国が保障するという公共性が極めて高い公共サービスであることから、公共が責任を持って実施する分野であると考えられているからである。

 ただし、一方で、公立高校については、政府は、予備校などの民間企業に運営まで委託する方向で検討しているという。まだ、議論の段階であり、社会人を対象とした通信制・定時制に限るのか、全日制まで含めるのかなど論点は多いが、公共性の高い教育分野といえども、民間に任せられるところは民間に委託していこうとする国の姿勢がみえる。

 これはなにもPFIに限ったことではないが、公共サービスの民間委託において官民の役割分担を考えるということは、行政が行うべきサービスとは何か、公共サービスの本質を問うことになるといえよう。

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投稿者:研究部担当部長 山田慎也|投稿日:2003年11月14日|

  • 研究部担当部長 山田慎也
  • No.0072

民間でできるものは官は行わない

 地方自治体の財政状況の悪化と住民ニーズの多様化を受けて、官民の役割分担の見直し機運が高まる中で、自治体では、民間企業の経営ノウハウなどを活用しようと、さまざまな方法が検討されはじめている。

 政府も、「経済活性化のために重点的に推進すべき規制改革」の答申の中で、重要なテーマとして「民間参入の拡大による官製市場の見直し」を挙げているが、その問題意識として、従来の「民間でできるものは民間に委ねる」という発想から、もう一歩進んで「民間でできるものは官は行わない」という考えを基本に置くことが適当であるとしている。

 最近、民間委託が進んだ公共事業分野としては、例えば、公立保育所の運営事業では、従来の委託先は社会福祉法人が一般的であったが、民間企業への委託も認められたことから、ベネッセコーポレーションが主に首都圏の公立保育所の運営受託を始めた。また、水道事業では、平成13年度の水道法の改正により、水道の管理に関する技術上の業務を民間委託できるようになったことから、浄水場の管理・運営を一定期間、民間に全面委託する例も見られるようになった。これらの例は公設民営と呼ばれる方法だが、管理・運営だけでなく公共施設の建設まで民間に委託する手法が、最近、注目されているPFIであり、静岡県内の自治体でも導入が具体的に検討されはじめている。

 こうしてみると、民間委託に関する事業分野ごとの規制緩和や委託方法の多様化が進み、自治体にとっては、公共事業を実施する上で、さまざまな選択肢を持つことができる環境になりつつあるといえよう。県内の市町村においても、単にPFIの導入を検討するだけではなく、アウトソーシングや公設民営など、他の手法も含めて総合的に民間活力を活用する方法を検討したいとするニーズが高まってきている。

 自治体にとって、まず、大切なことは、従来のやり方に縛られることなく、多くの民活手法の知識・実施方法などを習得し、そうした選択肢の中から、対象となる公共事業に適した、最も有効な方法を採用しようとする“意識”を持つことが重要となろう。そこには、より少ないコスト(税金)で最大の価値(公共サービス)を実現しようとする、“公共経営”の発想が求められることになろう。

投稿者:研究部担当部長 山田慎也|投稿日:2003年08月08日|

  • 研究部担当部長 山田慎也
  • No.0058

観光施設のリピーター(再来訪客)づくり

 多くの観光施設は、オープン当初は予想以上の集客があるが、時間が経つにつれて来訪客は減少するのが一般的である。さらに、施設の内容や運営の仕方がよくなくて、来客数の減少に歯止めが掛からない施設も多く見られる。

 そこで、観光施設にとって一番大切なことは、一度来たお客さんにもう一度、来訪してもらうこと、つまりリピーター(再来訪客)をつくることであると言える。リピーターづくりは、来訪客に、楽しかった、面白かった、得をしたなど、観光施設に対してよいイメージを持ってもらうことが大前提となるが、それだけでは不十分で、プラスαが必要である。それはなにか。

 先日、愛知県にある「安城産業文化公園 デンパーク」に行ってきた。緑花木が豊かな公園にデンマークの街並みや大温室、農園、レストランなどが整備されており、年間55万人を集客している観光施設である。そして、驚くことに、来訪客の6割以上はリピーターなのである。

 その理由を推測してみると、?草花の魅力…季節ごとに新鮮な発見がある、中高年者の集客にも効果がある、?充実したイベント…季節ごとに年4回の大きなイベントがあり、様々な催し物がある、?独自性のある飲食…地ビールや地元物産を利用した料理を提供するレストランがある、などが考えられる。基本的な機能(公園)の魅力に加えて、付帯機能(イベントや飲食)の魅力により、安定した集客が図られているといえよう。

 以前、当研究所が実施したリピーターに関する調査の結果、リピートづくりには、観光施設の基本的な機能の満足度が重要であるが、飲食や物販などの付帯機能の良し悪しもかなり影響することが分かった。特に、接客サービス、飲食・物販の内容や価格、入館料、トイレ・洗面所などの衛生施設などで不満を感じた人は、もう二度と来たくないと思う傾向があることが確認できた。プラスαが重要なのである。

 さて、「デンパーク」の詳しいレポートは、当研究所が発刊する「SERIまんすりー6月号」を参照されたい。また、今後、当研究所では同誌にて、リピーターづくりに成功した全国の観光施設を紹介していく予定なので、関心のある方は、ぜひ参考にしていただきたい。

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投稿者:研究部担当部長 山田慎也|投稿日:2003年05月02日|

  • 研究部担当部長 山田慎也
  • No.0045

PFIにおける事業方式の選択の重要性

 厳しい財政状況の中、全国の多くの自治体がPFI(民間資金や経営ノウハウを活用した社会資本整備)手法を取り入れ始めている。PFIでは、公共施設の設計・建設および完成後の管理・運営を民間企業に一括して任せることが基本である。ただし、そのなかでもいくつかの事業方式があり、最近の全国の事例を見てみると、この事業方式の選択によってはPFIの導入がうまくいかないケースも出てきている。

 事業方式の選択のポイントは2つあり、その1つは、PFIの事業期間中、公共施設を公共が所有するのか(BTO)、民間が所有するのか(BOT)という点である。2つ目は、民間の収入が、公共から支払われるサービス料金なのか(サービス購入型)、民間独自の収益事業による収入なのか(独立採算型)という点である。その組み合わせによって、PFIの事業方式の骨格が固まってくることになる。

 たとえば、BTO(公共所有)でサービス購入型の場合、民間の事業収入は公共から安定して支払われるサービス料であり、事業リスクが少なく、多数の民間企業がPFI事業に参加する傾向にある。また、BOT(民間所有)でサービス購入型の場合は、民間の事業収入は基本的には安定しているが、公共施設を所有することによるコスト(税金や修繕費の負担など)があるため、若干の事業リスクがあり、事業条件の設定が適正ならば民間企業の参加も期待できる。

 難しいのはBOT(民間所有)で独立採算型の場合であり、民間の事業収入は施設利用者からの利用料のため不安定であり、施設所有によるコスト負担もあることから、民間としては事業リスクが大きくなる。ゆえに、公共がPFI事業に参加する民間企業を募集しても、応募が1企業グループだけで競争原理が働かなかったり、中には応募する企業がなくPFI事業を断念したりする事例もある。

 要するにPFI事業は、参加する民間企業がいなければ成立しないのであり、ゆえに、民間側の事業リスクを十分に考慮した事業設定を行う必要があるといえよう。実際には、事業リスクは公共施設の機能やPFIの事業範囲など、様々な要因によって決まってくるが、なかでも事業方式の選択は非常に重要な要素であり、公共側の政策目的の実現を考え合わせながら、慎重に検討する必要があろう。

投稿者:研究部担当部長 山田慎也|投稿日:2003年01月31日|

  • 研究部担当部長 山田慎也
  • No.0032

PFIの税優遇措置-地方自治体にとってのメリット-

 従来、自治体が行っていた公共施設の整備を、資金調達から施設の設計・建設および完成後の管理・運営まで民間事業者に任せることで、公共事業コストを削減しようとするPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)を活用する動きが全国の自治体に広がっている。ところが、最近、PFIを導入する際の課題がいくつか指摘されるようになってきた。その一つとして、PFI事業を委託された民間事業者に課せられる税金の問題がある。政府では、民間事業者のPFI事業への参入を促すために、税制上の優遇措置を検討し始めている。

 PFIでは、事業期間中、委託された民間事業者が、対象となる公共施設を所有する方法がとられる場合が多い。その際、従来、自治体が直営で実施していれば課税されない固定資産税や都市計画税などが民間事業者に課せられることになり、事業コスト削減のメリットが薄められてしまう。さらに、PFIの事業期間は15年から30年程度に設定される場合が多いが、公共施設によっては耐用年数がそれ以上になる場合もあり、民間事業者はPFI事業期間中に減価償却がしきれないという問題も発生する。

 これらの課題に対して、固定資産税や都市計画税の軽減および減価償却期間の短縮による法人税負担の軽減といった優遇措置が検討されているわけであるが、これまでの当研究所におけるPFI導入可能性分析の経験から言えば、特に地方自治体にとっては、後者の減価償却期間の短縮が官民双方にとってメリットが大きいといえよう。

 なぜなら、固定資産税や都市計画税は地方税であり、地方自治体にとってはPFI事業者からの税収も重要な収入源であり、これが減免されるならば税収の減少につながることになる。つまり、固定資産税等の課税・非課税は、理論上は、地方自治体にとっては財政コスト削減効果に中立的といえる(自治体が民間事業者にサービス料金を支払う方式の場合、非課税による税収の減少に相当する分、サービス料金水準を引き下げるため)。一方、減価償却期間の短縮により軽減される法人税は国税であり、その削減は地方自治体にとっても民間事業者にとっても恩恵がある。

 本来、国税も地方税も税金には変わりなく、どちらも有効に活用することが基本ではあるが、公共事業の実施決定機関が地方自治体である場合、自らの財政状況への影響を考慮せざるを得ず、実務的には重要な判断基準といえよう。いずれにしても、こうした優遇措置が整備されることで、民間事業者のPFI事業に対する参入意欲が高まることは望ましい。静岡県内の自治体においては、いまだにPFI導入事例がない状態が続いているが、PFI導入における自らの自治体に対するメリットを現実的に分析し、PFIをより効果的に活用していく姿勢が大切であろう。

投稿者:研究部担当部長 山田慎也|投稿日:2002年10月18日|

  • 研究部担当部長 山田慎也
  • No.0019

PFIの導入分野-公共と民間の発想の違い-

 公共事業に民間企業の資金や経営ノウハウを取り入れるPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)を活用しようとする自治体が増えている。公共施設の設計・建設および完成後の管理・運営を民間企業に任せることで、事業費の削減や公共サービスの質の向上を図ることがPFIの目的であるが、今、自治体では、どの公共事業にPFIを導入すべきかが議論になっている。

 当所が昨年、静岡県内の自治体および主要民間企業に対してアンケート調査を実施した結果、PFI導入の可能性がある公共事業は、発注する側の市町村と受注する側の民間企業では、ずいぶんと発想が異なっている実態が明らかになった。
 市町村で最も回答が多かったのが「観光・商業施設」である。これは恐らく、同事業が収益事業であり、市町村ではうまく経営できないため民間に任せようとする考えと、収益性のある事業でなければ民間企業が参入してこないのでは、という思いが背景にあるものと推測される。

 しかし、民間企業の回答を見てみると、「観光・商業施設」は、選択肢として挙げた公共事業の中では少ないほうから2番目と人気がない。つまり、市町村の考えとは裏腹に、収益事業は集客がうまくいかなかったときの損失が大きく、第3セクターの失敗例を見るまでもなく、そうした事業は民間企業にとってはなんのメリットもないと感じているといえる。民間企業がPFIの導入を望んでいるのは、「ごみ処理・付属施設」「医療・福祉施設」「交通施設」「市町村庁舎」など、マーケットリスクのない純粋な公共事業である。

 PFI事業は、民間企業が参入してくれなければ成立しない。今後、PFI導入対象事業を選定する上で、自治体が注意しなければならないことは、民間企業のリスク(損失)とリターン(利益)のバランス発想である。民間企業は、ただ単に、できるだけ大きなリターンを狙っているわけではない。むしろ、その事業が内包するリスクを量と質の面から徹底的に分析し、できるだけそれを排除しようとする傾向がある。特にPFI事業では、公共からの過大なリスク移転を警戒しているともいえる。公共事業費の削減など公共側のメリットを実現させるためにも、民間企業の事業リスクを十分考慮した事業選定を行う必要があるといえよう。

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投稿者:研究部担当部長 山田慎也|投稿日:2002年10月03日|

  • 研究部担当部長 山田慎也
  • No.0004

民間企業の発想を取り入れた新しい自治体経営、NPM

 国および地方自治体の財政状況の悪化から、行財政改革の必要性が指摘され、各自治体において、実際にさまざまな試みが始まっている。その中でも、民間企業の経営ノウハウを活用して、自治体を効率的に運営しようとする発想から、NPM(ニュー・パブリック・マネジメント=新公共経営)という考え方が示されるようになった。

 NPMとは、自治体の運営に民間企業の経営理念や経営管理システムを導入することで、限られた税金で最大の公共サービスを提供しようとする手法である。そのポイントは、公共サービスを実施することで得られる成果を重視して、政策を決定することである。

 これまでの公共事業では、計画を立て予算措置をして、公共施設や道路などの整備を行ってきたが、それによって得られる住民の満足度や生活水準の向上といった成果についてはほとんどチェックしてこなかった。NPMでは、そうした公共事業の成果とともに、投下した資金(税金)を測定して、その政策が効果的・効率的であったかどうかの評価を行い、その結果を他の政策や次の計画にフィードバックする。このように計画、実行、評価、フィードバックという経営サイクルをつくることで、行政の政策立案能力を向上させ、コストパフォーマンスの高い公共サービスを実現しようというのである。

 これまで、行政における民間活力の導入といえば、公設民営方式や第3セクターなど、公共事業の一部を行政から切り離して、民間企業に任せる方式が中心だった。そして、最近では、施設の建設だけではなく管理・運営まですべて民間企業に任せて、民間の資金および事業ノウハウを最大限に活用しようとするPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)の導入が本格化している。

 NPMは、さらに、そこからもう一歩進んで、自治体そのものが企業経営の発想を取り入れて、行政システム自体を変えていこうとしているところに新しさがある。公共経営は、住民の合意形成など効率性のみを追求できない面もあるが、NPMが導入されることで、自治体が、自ら有する能力を最大限に発揮できる経営体になることを期待したい。

投稿者:研究部担当部長 山田慎也|投稿日:2002年04月15日|コメントを書き込む

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