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  • 主任研究員 塩野敏晴
  • No.0310

「行列店」の行列はなぜ途絶えないのか

 先日、東京で、常に行列のできる人気の飲食店を訪れた。その店は、鶏料理の老舗の料亭であるが、昼食時に限り親子丼を提供しており、これが連日大行列の人気となっている。私がこの店の存在を知ったのは10年以上も前のことであるが、大行列を敬遠して、足を運ぶ機会はなかった。そろそろ人気も一段落した頃ではと思い、所用で上京した際に立ち寄ったところ、相変わらずの大行列であり、一瞬迷ったが、これほどの長期にわたり大人気を持続する親子丼とはいかなる味か、との興味から1時間並んで味わってきたのである。感想としては、確かに卵はトロリとして甘く、評判どおり実に美味しかったが、1時間並んででもまた来たいか、と聞かれれば、答えは「?」である。昼食時の行列は肉体的・精神的にも結構辛いものがあり、私の価値観では、一度試してみる価値はあるがリピーターにはなり難い、というのが実感である。

 それでは、なぜこれほどの行列が長年にわたり続くのか、と考えた時に思い至ったのが、大行列は大半が私のような“一見客”だったのではないか、ということである。実は、並んでいる間に、ラジオ局が取材をしていたのだが、私の前後の数人はいずれも神奈川、埼玉など隣県からの客で「初めて来た」とのことだった。また、後から来た人たちの様子をみると、行列の長さに一様に驚き戸惑い、初めて来たような反応を示す人が多かった。一方で、常に大行列という事実がブランド価値となり、「それほどの評判なら試しに一度」という新規客の集客につながっている面もあろう。

 しかし、一見客を主な対象として行列ができるほどの商売が成り立つのであろうか、大まかに試算してみた。まず、昼食時の1日当たりの客数を、店内の席数、行列の人数、営業時間等からおよそ200人と見積もった。年中無休とのことなので、1年間ではおよそ7万人となる。マーケットの規模は、仮に首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)を対象エリアとすると、人口は約3,500万人である。このうち、「おいしい親子丼なら、並んででも1度は食べてみたい」と考える人がどの程度いるか。親子丼は日本人にとっては人気の定番メニューであり、ニーズは結構高いようにも思われるが、控えめに見積もって1割とすると、潜在的な市場規模は3,500万人×10%=350万人となる。年間7万人に提供していくと、350万人÷7万人=50年間という結果になる。かなり大ざっぱな条件による試算ではあるが、世代交代ということを考慮すれば、一見客だけでも行列が永久的に持続可能となる。

 実際にはこの店の客層が一見客中心であるかは不明であり、常連客も多いかもしれない。いずれにしても常に行列を維持するには、確かな品質、ブランド力、口コミ、立地条件などさまざまな条件が必要となろう。また、首都圏という人口規模があるからこそ、成り立つ計算でもある。しかし、仮に製品のネット販売であれば、対象エリアは全国、さらには世界にまで広げることも可能である。「一人1度きり」の需要でも、市場としては十分に成立する可能性のあることを実感させられた次第である。

投稿者:主任研究員 塩野敏晴|投稿日:2009年07月29日|コメントを書き込む

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