新着情報

ホーム > 新着情報 > 市場展望マンスリー

市場展望マンスリー

インフレ経済における資金運用の注意点

 アベノミクスによる金融・経済政策が効果を発揮し、米国経済を中心とする外部環境の好転も追い風となって、日本経済はデフレを脱却しつつあり、政策目標である消費者物価上昇率2%達成が現実的になってきた。一方で、日銀による異次元の金融緩和により、短期金利、長期金利は歴史的な低水準に張り付いているため、預貯金や国債などの確定利回り商品では、物価上昇分をカバーする利回りを出すのは困難な状況にある。
 インフレ経済において、保有資産の目減りを回避するには、確定利回り商品の中でも金利上昇に強い商品、元本保証はないが高収益が期待できる株式などのリスク商品、更には金融商品以外の不動産、貴金属など多種類の資産に分散投資する方法が一般的である。しかしながら、デフレ経済が長く続き、リスクテイクに慣れない一般投資家が多い中、金融商品の中にはデリバティブを内包した複雑な仕組みのものも多く、取引によっては損失が巨額になるものもある。リスクの所在、流動性の確保(現金化が容易な資産)など取引の特性をよく理解し、リスクとリターンの観点からバランスの取れた資産構成を作る必要がある。

金利上昇に強い商品、弱い商品
 金利が上昇していく局面では、普通預金など金利が変動する商品に優位性がある。市場金利の上昇に伴って金利が上がっていく特徴よりも、いつでも現金化が可能で金利の反転局面で固定金利商品への乗り換えができる点に強みがある。またインフレ経済では、市場金利の上昇に比べ資産価格や商品価格の上昇の方が大きいケースが多いため、土地や金など金融商品以外の運用は金利上昇に強いとされている。
 変動金利商品より利回りが高い定期預金や国債/社債(固定金利)など固定金利商品は、金利上昇に弱い運用である。金利上昇が続いても、満期/償還期限まで運用している資金の利回りは変わらない(固定)ため、受け取る利息が実質的に目減りしてしまうからである。

多額の資金を使わない取引
 円安が進行すると輸入物価が上昇するため、外為証拠金取引によってインフレに備える方法がある。この取引は一定の証拠金(担保)を提供すれば、資金を上回る取引が可能となるため資金的な効率は高いが、理論的な損失は無限大に近くなる取引である。例えば円安になった時に利益が得られるように、米ドルを買って円を売る取引をした場合、反対に1ドル=90円、80円と米ドル安が進んだ時、損失は巨額なものになる。証拠金取引やデリバティブ(金融派生商品)は資金効率が高く、資金の流動性を確保できるメリットがある反面、損失が巨額になるリスクがあることを十分認識する必要がある。

オプション取引
 オプション取引自体は一般投資家には馴染みがない取引であるが、円安や原油価格が上昇した時に利益が得られるようなオプション取引を内包して設計し、インフレに備える投資信託がある。オプション取引とはある資産(株式や商品など)を一定の価格で、一定の期間内に購入または売却できる権利(オプション)を売買する取引であり、権利を購入した者が売却した者に手数料を支払うことになっている。例えば現在100円の物を、1年の間にいつでも150円(権利行使価格)で購入できる権利を10円(手数料)で購入したとすると、その物が200円になった時、権利を購入した者は40円(200円―150円―10円)の利益を上げることができる。一方で権利を売却した者は同額の損失を被ることになる。
 この取引の特徴としては、オプション購入者は支払った手数料が損失の上限となる一方、利益は無限大となる。反対にオプション売却者は受け取った手数料が利益の上限となる一方、損失は無限大となる。不平等な取引のように見えるが、100円の物が1年間で150円以上になる確率が低いため、リスク/リターンの観点からは両者平等なのである。
 定期的な配当を好む個人投資家は多いが、「1ドル=80円より円高にならなければ」、「原油価格が1バレル=80ドルより下がらなければ」といった条件付きで高い利回りを保証している投資信託の中身は、オプションを売却して得た手数料を利回りとして分配しており、一方でオプションが行使されれば元本は大きく毀損することになる。
 様々なオプションを組み合わせて、リスクが少ないように錯覚させる投資信託も多いが、リスク/リターンの原理は変わらない。また権利行使価格が現在価格と大きく乖離しているとリスクが少ないような感覚になるが、本来オプションの売却者は大きなリスクを背負っていることに注意しなければならない。

今後の見通し
 米国経済の本格的な回復とこれに対応するFRB(米国連邦準備銀行)の金融緩和縮小、欧州経済の足踏みと低インフレ、これに対応するECB(欧州中央銀行)の金融緩和継続が鮮明になってきた。日本ではアベノミクス第三の矢である成長戦略の内容が明らかになった。日米欧を取り巻く経済環境の方向性が定まって来たので、今後の金融市場の動向は安定感が出て来る可能性が高い。

投稿者:静岡経済研究所スタッフ|投稿日:2014/08/01|

インフレ経済ではインフレ率控除後の価値が重要

実質金利と名目金利の違い
 日常生活の中で、われわれが目にする金利はすべて「名目金利」と呼ばれるものである。そして金利が高いのか低いのか頭の中で考える時も、大多数の人は名目金利を基準に判断する。経済学においては名目金利に対して「実質金利」という概念があるが、実体経済への影響は、この実質金利で判断すべきという考えが一般的である。
 実質金利とは名目金利からインフレ率を差し引いたものであり、例えば「名目金利=2%」でもインフレ率が2%であれば、実質金利は0%(2%―2%=0%)になる。これは1年後には2%の金利が付いて「元本+利息」が102になっても、物価が2%上昇して102になっていれば、1年前と同じものしか買えないことになり、金利の価値は実質的には0%という意味を持つ。言い換えれば名目金利とは見かけの金利であり、実質金利こそが本当の金利とも言える。

実質金利で見ると判断が違ってくる
 インフレ率が▲1%の時に新車をローンで購入する場合、「オートローン金利1%」の実質金利は2%になる(1%―(▲1%)=2%)。「今、新車を購入できるのであれば、1%の金利負担は高くはない」と借入れをするのは、名目金利を基準にしている感覚である。逆にインフレ率2%の時の「オートローン金利3%」の実質金利は1%になる(3%―2%=1%)。「3%の金利負担をしてまで購入することはない」という感覚も名目金利を基準にしたものである。デフレ経済では名目金利<実質金利であるが、インフレ経済では名目金利>実質金利となる。今後、日本経済はデフレからインフレに移行していく可能性が高く、名目金利と実質金利の関係が逆転してくる。デフレ経済に慣れてしまった感覚に惑わされて、判断を間違えないよう留意が必要だ。

インフレ率を控除すると資産価値が違ってくる
 長く続いたデフレ経済のもとでは、あえて実質金利という概念を持ち出さなくても、日常生活で大きな不利益を被ることはなかった。それはインフレ率がゼロ近辺であれば名目金利≒実質金利であり、銀行や証券会社の窓口で目にする名目金利は、表示通りの価値を消費者にもたらすものだったからである。しかし、今後政府目標であるインフレ率2%が達成された時には、名目金利を基準にして判断すると大きな不利益を被るリスクが出てくる。
 例えばインフレ率2%のもとで、5年間無利息の状態で資金を寝かせておいたとすると、5年後に元本の100は確保できているが、その時物価は110に上昇しており、同じものを購入しようとしても10足りないことになる。つまり5年後の元本100は購買力で言えば10%減価しており、90の価値にしかなっていないのだ。
 金融商品の説明で出て来る「元本保証」という言葉も、インフレ経済のもとでは特に注意が必要である。元本を保証するというのは、現在の元本100を5年後に最低限100で返却するということであるが、インフレ率によって100の価値は違ってくる。5年後における100を実質的価値でみた場合、インフレ率が0%であれば100であるが、インフレ率2%であれば90になってしまっている。この種の商品は、100の払込金を5年後に100になる割引債90と、リスクの高い商品10に分割して運用し、最悪でも100が残るようにしている場合が多い。10というリスクを取るのであれば、100という多額の現金を使うよりも、当初から10のリスク商品だけを購入した方が、余分な90を使わない分だけ資金の流動性を確保する点で勝っている。心理的な錯覚に惑わされないよう、インフレ率控除後で資産価値を考えることが大切である。

今後の見通し
 本年も前半が終了し、金融市場を大きく動かすヘッジファンドの為替市場、株式市場などにおけるポジションは縮小しているようである。後半における主な材料は、米国経済の回復の強さと金融緩和縮小スケジュール、欧州のデフレ懸念と追加金融緩和、日本の成長戦略の中身と具体化スケジュールなどになろう。ポジションが軽くなり投資余力が増しているヘッジファンドは、これから後半戦に向けて新たなポジション構築を始めて来るが、米国金利上昇がシナリオの中心に据えられるだろう。
 しばらく続いていた各市場の小康状態も、投資家がポジション作りを一気に行うと一時的なオーバーシュートが起こるため、短期的には波乱が起こることも想定しておく必要がある。

投稿者:静岡経済研究所スタッフ|投稿日:2014/07/01|

市場を撹乱するコンピューター取引

HFT(High Frequency Trading =高頻度取引)
 本年4月米国当局はHFT(High Frequency Trading =高頻度取引)に対する調査を開始した。HFTとはコンピューターを使って行う高頻度かつ高速取引であり、1秒間に数千回の売買注文の発注や取り消しを行うことで相場を操りながら、細かな収益を積み上げていく取引である。ヘッジファンドや証券会社など限られた業者が行っているが、一般の投資家に比べて優位な立場で不正に取引しているとの疑いがかけられている。
 HFTは取引所のシステムに直接アクセスできるサービスを利用して行う。一般投資家も料金を払えば利用することができるが、コストを考えれば大量の取引ができるヘッジファンドや証券会社など一部の投資家に限られるため、公平性の観点から問題があると言われている。
 HFTは株式、為替、金融先物、商品先物市場などで行われているが、取引手法は経済環境や企業業績などに関係なく、相場のあやを取っていく取引である。高頻度かつ高速の注文や取り消しを行い、自分の利益が出るように相場を操っていくため、法律で禁止された相場操縦行為の疑いがある「見せ玉」「見せ板」にも類似し、またインサイダー取引の疑いも指摘されるが、今のところ第三者が立証するのは難しいとされている。

アルゴリズム取引
 アルゴリズム取引とは、コンピューターシステムが予め入力しておいたプログラムに基づいて、自動的に売買の発注を繰り返す取引をいう。現在、アルゴリズム取引はHFT取引と同様に株式、為替、金融先物、商品先物取引に用いられており、欧米株式市場では取引全体の5割以上、日本では3割以上がアルゴリズムによってコンピューターが自動的に売買を繰り返していると推測されている。
 コンピューターシステムは証券会社が保有しており、投資家はこのサービスを利用することができるが、利用者の多くは大口の取引先に限られている。システムは自己にとって有利な取引を行うことを目的に開発されるためその詳細は秘密であるが、過去の価格情報、板情報などの注文情報、ニュースをはじめとするトピックス情報などに反応するように作られている。取引目的が短期の鞘取りの場合、アルゴリズム取引同士が高速でぶつかり合うため、相場が短時間の間に激しく乱高下する要因にもなっている。

金融市場の役割
 金融市場の役割は実体経済に投資資金を供給することであるが、コンピューター取引の拡大により本来の目的から逸脱し始めていると懸念する声が増えている。特に短期的な利益を追求するマネーゲームに近い取引については、資本主義に何の貢献もしていないばかりか、健全な長期投資にとっては弊害になると批判する声がある。アルゴリズム取引のようにコンピューターが自動的に売買指令を出し、HFT取引のように人間ではとても追いつけない速度で発注、取り消しを行う取引が半分を占める現在の金融市場では、長期的な投資を行う一般投資家が市場への参入を敬遠してしまいかねない。
 米国当局はHFTに対する調査を開始したが、来年にはHFTやアルゴリズム取引の主なプレーヤーであるヘッジファンドに対する規制を含む「ボルカールール」が米国で施行され、短期的な収益を追求する傾向が強くなってきた金融市場に変化が出て来る可能性がある。

今後の見通し
 現在、主要な投資家の間では各国の経済見通しや今後のシナリオ修正が行われ、金融市場は踊り場にきている。米国経済の回復については年初シナリオに沿ったものとなっているが、日本経済についてはアベノミクスの第三の矢である成長戦略に対する期待が大きく後退、欧州についてはデフレ懸念が予想以上に大きくなってきた。年初には新興国経済に対する期待は小さく、アルゼンチンショックやクリミア危機の発生によって混乱が心配されたが、先進国経済のもたつきによって相対的な評価はむしろ上がってきている。
 日本の株式市場は具体策が見えない成長戦略、TPP交渉の行方、消費税増税の影響など目先の不透明感が強く、方向性が出て来るのは夏場以降になりそうである。円相場については日銀の金融緩和追加策の有無、米国FRBの金融緩和縮小に大きく影響されるが、円安の方向性は変わらないだろう。

投稿者:静岡経済研究所スタッフ|投稿日:2014/06/02|

市場と対話(フォワード・ガイダンス)する中央銀行

 実体経済における金融の影響や、経済政策における金融政策の役割が大きくなっている。背景には金融自由化により金融商品が次々と開発されたり、金融グローバル化により投資資金が世界を自由に動き回ることができるようになって、実体経済との関わり合いが深化していることがある。また、世界的に国の財政規律に対する目が厳しくなる中で、財政政策による景気対策が取り難くなっていることで、金融政策の役割は相対的に大きくなっている。
 世界経済を混乱させた2008年のリーマン・ショックは、米国で開発された「サブプライムローン」という金融商品の破綻が原因であり、この時各国が景気回復のために行った政策は、大規模な金融緩和が中心になっている。金融史において最大級となった金融緩和は、「金利引き下げ」という伝統的な手法に加えて、中央銀行が国債やその他の証券を買い上げて市場に出回るお金を大量に増やす「量的緩和」という非伝統的な手法も取られた。2012年のギリシャ・ショックに端を発した「欧州危機」による景気悪化は、そもそも緩んだ財政規律を市場が問題視したことが発端であり、ユーロ圏の景気対策は大規模な金融緩和に頼らざるを得なかった。
 このように金融政策の重要性が高まっている中で、各国中央銀行の政策手腕に注目が集まっており、金融政策の具体的な中身はもとより、効果を最大限発揮させるためにいかに金融市場を望む方向に誘導するかという、いわば市場との対話力も重要視されている。

日本銀行のフォワード・ガイダンス
 もともと中央銀行の政策決定には秘密性があり、「公定歩合の変更に関しては嘘が許される」と言われたほどである。しかしながら金融市場が拡大し実体経済への影響力が大きくなった現在では、政策当局の意図が市場参加者に伝わらない時には、政策効果が削がれてしまうばかりか市場が意図せぬ方向に向かい、実体経済に悪影響が出てしまう場合もある。むしろ政策の意図や先行きを公表し、市場参加者の不安を取り除いたり、期待に働きかけたりする方が金融政策の効果を高めるという考え方に変わってきた。
 フォワード・ガイダンスと呼ばれている「市場との対話術」は、1990年代に日本銀行が「ゼロ金利政策」を導入した際、市場に一層の安心感を持たせるためにゼロ金利解除の具体的な条件を示したことが発端とされ、「時間軸政策」とも呼ばれている。昨年の異次元の金融緩和における、「インフレ率2%が定着するまで金融緩和を継続する」という声明も、将来の政策の方向性を明確にしたフォワード・ガイダンスである。

FRB(米国連邦準備銀行)のフォワード・ガイダンス
 景気回復が鮮明になってきた米国では、FRBは金融緩和継続による将来のインフレリスクの芽を摘むため、昨年12月に緩和縮小に踏み切った。しかしながら過去に例をみない大規模な金融緩和を元に戻すまで、今後とも難しい舵取りが予想されている。長期間かつ大規模な緩和に慣れた金融市場が過剰反応すれば、株式、債券、商品市場の急落を招き、実体経済の回復は腰折れしてしまうリスクがあるからである。FRBは景気回復を阻害しないように、適切な規模とスピードによる金融緩和縮小を目指しているが、市場に安心感を与えながら混乱を招かないように、金融緩和縮小のフォワード・ガイダンスを駆使している。
 FRBの緩和縮小は「テーパリング=量的金融緩和の縮小」に始まったが、今後の縮小スピードについては、市場参加者の無用な憶測を呼ばないように、「景気に大きな変動がない限り定期的に行う」としている。また「テーパリング」の後に控えている「ゼロ金利解除」の条件を、「失業率6.5%を下回ること」と市場に明示していたが、更に「インフレ率が2%を下回る状況では、失業率が6.5%を下回ってもゼロ金利は継続する」と、市場を見ながら追加のメッセージを送っている。

今後の見通し
 金融市場においては、近年珍しく日本の政治リスクが意識されている。日本経済が低迷していた時には、外国人投資家にとって日本の政治に対する関心も薄かった。経済に対する期待感が高まってきたと同時に、外国人投資家の目は、外交政策にも厳しくなってきている。これは日本経済が外需に頼るところが大きいと見ているためであり、貿易相手国との政治的な摩擦が経済活動に悪影響を及ぼしかねないと警戒している。金融市場においては、アベノミクスの成功の条件は国内政策に加え外交政策という新たな要素が加わってきた。

投稿者:静岡経済研究所スタッフ|投稿日:2014/05/01|

資本取引自由化の影響

米国のテーパリング(量的金融緩和の縮小)で新興国からの資金流出が加速
 FRB(米国連邦準備銀行)によるテーパリングが昨年12月から始まった。開始時期を巡る不透明感が払拭されたことにより、落ち着いた動きを見せていた金融市場であるが、1月23日の外国為替市場におけるアルゼンチンペソの急落(米ドルに対して1日で12%の下落)により、俄かに慌ただしくなってきた。リーマン・ショックによる金融不安、景気悪化を克服するため、米国を始めとする先進国は、大規模な金融緩和によって大量のマネーを市場に放出したが、より高い収益を求めるマネーは、先進国に比べて勢いがあった新興国に流れ込んでいった。しかしリーマン・ショックを克服した先進国経済が成長を取り戻し、新興国の成長に一服感が出始めた昨年からは、マネーの流れに変化が現われてきた。米国のテーパリングが金融市場の話題になり始めた昨年夏場以降、マネーの新興国から先進国への回帰が鮮明になっていたが、アルゼンチン問題で市場心理の悪化に拍車がかかる可能性も出てきている。

資本取引規制の自由化が新興国への資金流入を後押し
 先進国の金融緩和マネーが新興国に大量に流れ込んだ背景には、1980年代から90年代にかけて世界的に広がった資本取引の自由化がある。特に経済成長が遅れていた新興国は、資本取引の自由化によって外国の資金を積極的に受け入れ、国内経済の拡大を加速させてきた。資本取引の自由化は、資金余剰国から資金不足国へ資金移動を促進するため、世界全体で見ても資金配分の効率化が図られ、経済発展に大きく寄与している。
 具体的な資本投資の手段は、外国金融機関による現地企業への融資や債券・株式購入など証券取引による間接的なものと、工場などの生産設備、商業用不動産や住宅など実物資産を外国資本が取得する直接的な投資に大別される。資金流入国の経済が順調に推移している局面では、受け入れ国の経済成長は加速し、資金提供した投資家は高い利回りが確保できるため、双方にとってメリットが大きい。

危機対応に必要な資本取引規制
 一方で資本流入が急激であったり、大幅な拡大が長く続いたりすると、インフレ、通貨高による国際競争力低下、金利上昇、資産バブルの発生を招くなど、受け入れ国の経済にとって悪影響を及ぼすリスクも抱えている。
 また流入した資金はどこかで回収が始まるが、流入国の景気悪化やバブル崩壊など悪材料がきっかけとなり危機的な状況になることも多く、1980年代のラテンアメリカの金融危機や、1990年代のアジア通貨危機が代表的な例である。融資や生産設備投資などは長期的資金が多いが、証券取引や不動産投資は短期的な収益を求める資金が多く、短期資金は一旦回収が始まると一方通行になりがちである。特に近年では高い利回りを求める資金余剰者が、ヘッジファンドなどに運用を委託するケースが多く、運用サイクルや取引スピードに短期志向の強いヘッジファンドがパニックの引き金を引くケースが多くなっている。
 資本流入・流出に関わる過去の危機に学び、特に新興国では何らかの資本流入制限を行う国が多い。具体的には外国人投資家による国内証券投資に一定の制限をしたり、国内企業に対して外国からの借り入れに制限をするなどの直接的な総量規制が多い。外国からの借り入れに対する課税や、外国からの預金受け入れに対する高率の預金準備率賦課など間接的な規制をとる国もある。
 しかしながら国内の経済成長を後押しする資本流入への規制は、国内政治的には不人気の政策であり、資本自由化を進める世界的な潮流からも外圧が強く、危機管理よりも目先のメリット享受を優先するのが実態といえる。危機に強い国内経済構造改革や規制整備は、危機の発生によって進んでいくのが過去の歴史ではあるが、世界経済の発展を大きく毀損するような取り返しのつかない事態は回避しなければならない。特に最近では取引が容易な直接金融(証券市場)が拡大し、短期資金が集中するヘッジファンドの隆盛が危機発生の確率を高めているため、G7やG20などによる協調体制強化に加え、目先の利益ではなく長期的利益追求のために、必要な規制や法律整備を国際的に進めなければならない。

今後の見通し
 新興国の経済成長に一服感が出る中で、先進国への資金回帰が鮮明になっている。特に米国経済に対する信頼感が高まっており、米国株上昇、為替市場での米ドル高が今後も続く可能性が高い。日本経済については「アベノミクス」の第三の矢(成長戦略)に対する期待感が後退しており、株式、為替ともに国内要因よりも海外要因によって動く場面が多くなるだろう。特に株式市場においては、成長戦略の具体化や脱デフレなど国内材料が明確になるまで、外国人投資家の思惑によって上下する、ボラティリティー(変動率)の高い局面が続く可能性が高い。

投稿者:静岡経済研究所スタッフ|投稿日:2014/04/01|

2014年 金融市場の展望

1.注目材料
(1) 米国のテーパリング(量的金融緩和の縮小)
 2014年の世界の金融市場の動向を左右する最大の材料は、FRB(米国連邦準備銀行)によるテーパリングであろう。市場参加者の大多数は、FRBがテーパリングを早晩開始することについては既に織り込んでいるが、リーマン・ショック以降続けられてきた米国史上最大規模の金融緩和が、転換点を迎えるという象徴的な出来事に、虎視眈々と収益チャンスを見出そうとしている。そのためにテーパリングが実体経済に与える影響よりも、単なる「市場を動かす材料」として独り歩きし、市場参加の思惑がぶつかり合って、短期的には相場が大きく変動する可能性がある。
 現在の金融市場は、米国を始め先進国の金融緩和に支えられた流動性相場の様相が強いため、テーパリングの背景にある米国経済の回復という好材料が影をひそめ、流動性の縮小という悪材料が強調されかねない。金融市場を納得させながら金融緩和の縮小を進めていかなければならないFRBは、市場との対話能力を試されそうである。

(2) 日銀の追加金融緩和
 米国が金融緩和縮小に向かう一方で、市場では日銀の追加金融緩和の可能性をうかがう動きが強まりそうである。アベノミクスの第三の矢と言われている「成長戦略」の実効性に遅れが出て来ると、日銀は「2年で2%の物価上昇率」という目標達成のため、一段の金融緩和に追い込まれかねないと市場は予想している。世界の金融市場に対し流動性を供給する主役が、米国から日本に移って行けば、特に為替市場では「ドル高、円安」という流れが強くなる可能性が高い。もしも日銀の行動に躊躇が見られれば、「日銀は目標達成のためにはあらゆる手段を行使する」と認識している金融市場は、ネガティブな反応をするだろう。

(3) 新興国のジレンマ
 米国の金融緩和縮小による「ドル高=新興国通貨安」の進行は、成長一服感が出ている新興国にとっては、金融政策の自由度を狭めるという点で厄介な問題でもある。「通貨安によるインフレを抑制→金融引き締め」と「景気刺激→金融緩和」というトレードオフの難題に、どちらを優先させるのか政策の方向性を金融市場が問いただす場面が出て来るだろう。また新興国の中でも資源に対する依存度が高い国にとっては、ドル高は資源価格安と自国のインフレリスクを高めるというダブルパンチにもなりかねず、金融市場の警戒感も強まっている。

2.市場の動向
(1) 為替動向
 米ドルのレパトリ(海外に投資していた資金を本国に戻す)に伴う「米ドル高」が進む可能性が高い。リーマン・ショック以降の世界的な金融緩和の中で、FRBは最も多額の資金を市場に投入しており、現在FRBの資産は4兆ドル(約400兆円)規模と、リーマン・ショック前と比べて約4倍の水準に膨れ上がっている。市場に出回った資金の多くは、投資資金として米国外に流出しており、FRBが市場に放出した資金を回収し始めれば、為替市場には米ドル買いの大きな圧力がかかってくる。
 2014年の世界経済は穏やかな回復が見込まれており、世界的なリスク資産選好の流れが続きそうだ。市場参加者の資金調達通貨は金融緩和縮小の「米ドル」から、金融緩和拡大の「日本円」へと比重が移っていくことが予想され、いわゆる「円キャリー取引」の規模が拡大し、予想外の「円安」が進む可能性もある。

(2) 金利動向
 デフレ脱却までの金融緩和をコミットしている日本では、短期、長期金利ともに低位安定が続きそうである。インフレ懸念が薄れてきた欧州も、景気対策のため金融緩和を維持する見込みであり、南欧諸国の財政問題も落ち着いているため、短期、長期金利ともに低位安定が予想される。テーパリングが予想される米国であるが、ゼロ金利政策は維持される見込みであり、イールドカーブのスティープニング(長短金利差の拡大)が進みそうである。通貨安によるインフレ進行を懸念する新興国では、金融引き締めが優先されそうであるが、海外からの投資資金が大量に流入している債券市場では、為替相場を睨みながら不安定な動きが予想される。

(3) 株式動向
 世界的にリスク資産を選好する流れが続きそうであるが、経済成長に一服感が出ている新興国よりも、景気回復局面に入った先進国に対する関心が高まりそうである。特に米国ではリーマン・ショック以降の景気回復を評価する動きが続いており、今年も世界の株式市場を牽引して行きそうである。
 日本では円安による企業収益回復と脱デフレ期待が根強いため堅調な展開が予想されるが、海外投資家主導の売買には不安定さも残りそうである。国内投資家による債券投資からの資金シフトや、年金資金など海外の長期資金の流入が強まれば安定感のある上昇が期待できる。

投稿者:静岡経済研究所スタッフ|投稿日:2014/01/06|

膨張を続けるデリバティブ取引

 金融市場を取り巻く環境は、デリバティブ取引の拡大により大きく変化している。デリバティブ(derivative) を直訳すれば「派生物」となり、金融用語として使われるデリバティブ取引は、「金融派生商品」と呼ばれている。「派生物」とは、ある源から枝分かれしてできた別の物の意であるが、例えば「日経平均先物」とは、源である「日経平均株価」から派生して作られた金融商品ということになる。

 デリバティブ取引では「先物取引」「オプション取引」「スワップ取引」の3種類が代表的な取引であるが、いずれも源となる資産(商品)の価格が変動すると、デリバティブ取引の価格(価値)が変化する仕組みになっている。例えば「日経平均先物」は現物株の日経平均が上昇すれば先物価格は上昇し、「WTI原油先物」は現物取引のWTI原油価格が上昇すれば先物価格は上昇する。

 デリバティブ取引の本来の目的は「リスクヘッジ」にあり、先物取引の発祥は日本における「米」の先物取引とされている。収穫時に米の価格が大きく変動すると農民の生活が不安定になるため、将来の米の価格を予め決めて安心して米を生産するために先物取引が開始された。

 デリバティブ取引が主としてヘッジ目的として利用されていた時には、デリバティブ取引の価格(価値)は、源となる現物価格の変化に連動して動いていたが、現在では現物市場との関係を離れ、デリバティブ取引単独の需給関係で価格が変動するケースが多くなっている。最近金融市場が大きく変動する局面では、最初にデリバティブ取引の価格が変動し、これに引きずられる形で源である現物取引の価格が変化することが多く、主従が逆転してしまっている。

 デリバティブ取引が拡大し、金融市場を主導するようになってきた理由は2つある。1つ目はデリバティブ取引が、少ない元金で大きな取引ができることである。デリバティブ取引の多くは証拠金取引と呼ばれるものであり、現物市場のように売買代金の全額をやり取りする必要がない。通常は用意したお金(証拠金)の3倍程度の取引ができるため、現物取引に比べて元手に対する利益(損失)が大きくなる。またデリバティブ取引は現物取引に比べ取引が速く成立するため、投機的な取引を好む投資家はデリバティブ取引を多用する。

 2つ目は「裁定取引」と呼ばれる、現物取引とデリバティブ取引の間に生まれる価格差を利用する取引が活発化していることである。例えばそれぞれの需給要因などによって、原油の現物価格が先物価格より安い場合が一時的にあったとすると、現物を買って先物を売ることにより、その差額を儲けることができる。こうした裁定取引が多くなされると、現物価格が上がって先物価格が下がり、最終的には現物と先物はほぼ同価格(同価値)に収まることになる。デリバティブ取引を現物取引の代用として利用する投資家も多い。取引量の多さは市場の流動性を高めるため、取引拡大⇒市場の流動性増大⇒さらなる取引拡大、という好循環ができている。

 デリバティブ取引は金融市場が急落するとしばしば犯人扱いされるが、逆に急上昇を主導する場合も多い。市場が過熱した場合、金融当局は必要証拠金の割合を引き上げて取引を抑制する措置などを講じるが、市場を管理するのは難しいのが現状である。デリバティブ取引は特殊な例を除き、必ず一定期間内に反対取引(買い建てをしていれば、売り返済が必要)をしなければならないため、長期的に見れば需給は一定である。デリバティブ取引による市場の乱高下は、短期的なものとして割り切る必要もあるだろう。


今後の見通し

 世界を取り巻く経済環境は、比較的良好と言える。欧州ではギリシャ、イタリアなどユーロ圏の財政問題が落ち着き、景気の底入れ感が強くなってきた。新興国の景気は一時の勢いに比べれば減速感が出ているが、長期的な成長期待は維持されている。国内では消費税増税の影響について不透明感はあるが、金融政策と成長戦略により「脱デフレ」の実現が期待され、国内経済は堅調さを取り戻している。2020 年の東京五輪開催決定は、計量的な経済効果こそ限定的であるが、五輪を梃にした規制緩和・成長戦略の加速、消費マインドの好転により、日本経済に絶大な好影響を与える可能性がある。米国経済は住宅市場の回復と雇用環境の好転により、個人消費を中心とした内需主導の景気回復は予想を上回っている。

 世界的に実体経済の回復が見込まれる中、金融市場においては米国経済の好調さがむしろ懸念材料になっている。それはFRB(米国連邦準備銀行)の量的金融緩和(QE3)が縮小に向かうという推測であり、量的金融緩和に支えられている現在の市場の梯子が外されてしまうとの思惑である。特に新興国に流入していた資金が逆流し始め、為替、株式市場が不安定化している。基軸通貨国の金融政策が転換点を迎えているだけに、金融市場は神経質な展開となっているが、いずれ実体経済の堅調さに目が行く展開になる可能性が高い。

投稿者:静岡経済研究所スタッフ|投稿日:2013/10/01|

長期金利の落ち着きどころ

 4月に日銀が明らかにした金融緩和策を受けて、為替、株式市場では円安、株高が急ピッチで進んでいるが、債券市場においては1 0 年物国債の利回りが乱高下している。日銀による長期国債の買い入れによって、長期金利は今後も低下していくという思惑と、金融緩和による円安、株高、土地価格などの上昇により景気が回復すれば、いずれ長期金利が上昇するという思惑がぶつかり合っているためである。

 金融緩和の実体経済への影響が検証され、市場参加者のコンセンサスが醸成されるまでは、長期金利は不安定な動きをすることが予想されるが、最終的には実体経済に見合った水準で落ち着くはずである。今後の長期金利の動向を予想する際の1つの参考材料として、名目長期金利と実質長期金利の違いに注目したい。

 実質長期金利とは名目長期金利からインフレ率を引いたものである(実質長期金利=名目長期金利?消費者物価指数)。これは例えば1年間に4%の金利を支払って資金を借りていても、物価が2%上昇していれば、実質的な金利負担感は2%(4%?2%)であるという考え方である。逆にお金を運用する側から考えれば、利回り4%の国債を買って利息を貰っても、インフレ率が2%であれば、1年後に買い物をしても2%分しか余分に買い物ができないことになり、4%の利息の実質的な価値は2%しかないという考え方である。 

 日本の1 0 年物国債の利回りは先進国の中でも突出して低いが、実質金利で見てみると様子は異なる。例えば0 . 6%の日本の1 0年物国債利回りは、▲0 . 0 4%のインフレ率(2 0 1 2年平均値)を引けば、0 . 6 4%となるが、1 . 6%の米国の1 0 年物国債利回りは、2 . 0 8%のインフレ率(2 0 1 2 年平均値)を引けば▲ 0 . 4 8%となり、実質長期金利は日本の方が高いことになる。実質長期金利だけに注目すれば、米国の方が日本よりも金融緩和状態にあるとも言える。

 実質長期金利の妥当な水準は、その国の景気の状態や方向性、財政状態など様々な要因によって変わってくるが、一般的には実質金利は実質経済成長率に近い水準に収斂すると理解されている。企業が借り入れをして投資を行っている場合、期待される収益より金利負担が少なければ借入を増加させ、金利負担が多ければ減少させる可能性が高いことを考えれば、金利が成長率に近付いていく理屈が理解しやすい。過去2 0 年の日本を見てみると、1 0 年物国債利回りの平均値は1%?2%、インフレ率の平均値は0%?1%、実質経済成長率の平均値は1%程度で推移しており、名目金利、実質金利、インフレ率、実質経済成長率の関係は概ね妥当な水準で推移していたことになる。

 日銀は今後2年間で2%の物価上昇を目指すとしている。1 0 年物国債利回りの水準が変わらなければ、実質金利は物価上昇分低下していくことになる。仮にインフレ率が2%、1 0 年物国債利回りが0 . 6%とすれば、実質金利は▲ 1 . 4%となる。更に安倍政権が計画している成長戦略により、仮に2%の実質経済成長が定着すれば、「実質金利=実質経済成長率」の関係を考えると、かなり不自然な状態が発生することとなる。現在の国債市場が乱高下しているのも、こうした将来起こりうる不自然さを予感した動きとも言えそうだ。日銀が金融緩和により長期金利を抑え込もうとしても、インフレ率、経済成長率など実体経済と整合性がとれる水準に向けて、長期金利は上昇していく可能性が高い。


今後の見通し

 国内金融市場における、為替市場1ドル= 1 0 0 円、1 0 年物国債利回り0 . 6%、日経平均株価15,000円程度は、日銀の金融緩和計画が十分織り込まれた水準と言える。今後の展開については、物価上昇など実体経済における具体的な効果が現われてくるまで、現状水準を大きく超える進展は難しいだろう。更に株式市場においては、6月に明らかになる「第三の矢=成長戦略」の内容に対する市場の関心が高く、期待に応えられる内容でなければ、失望感が広がる可能性が高い。

 世界の金融市場においては、米国経済に対する注目度が高くなっている。住宅市場の回復から個人消費を中心に穏やかな内需拡大が続いているが、一段の成長には雇用の回復が欠かせないため、米国の雇用統計に敏感に反応する展開が続きそうである。世界的な金融緩和による金余りが現在の金融市場の前提となっているため、FRB(米国連邦準備銀行)の金融政策に対しても市場参加者は神経質になっている。

投稿者:静岡経済研究所スタッフ|投稿日:2013/06/01|

金融市場で存在感を増すCTA(商品取引顧問業者)

 自民党政権による経済運営、いわゆるアベノミクスによって円安、株高、債券高(金利低下)が急ピッチで進み、日本の金融市場は様変わりになっている。長年にわたりジャパン・パッシング(Japan passing)とまで言われ、世界の投資家にとって無関心であった日本の金融市場は、今年に入ってからは最も注目を集める市場の1つとなっている。

 「デフレ脱却」を掲げる自民党政権の経済運営、いわゆるアベノミクスが好感されているが、具体的な政策の実行はまだこれからである。日本の投資家(個人や機関投資家)にとっては政策が遂行されているという実感は少なく、積極的に金融市場をリードしていく動きは少ない。期待を先行させて活発な取引を行っているのは、ヘッジファンドを中心とした外国人投資家である。

 ヘッジファンドの定義について明確なものはないが、個人や機関投資家から私募形式で資金を集め、利益追求を唯一の目的として、様々な金融商品に投資するプロフェッショナルなファンドである。2 0 0 8 年のリーマン・ショックに始まる世界的な金融システム不安の中で、運用成績の悪化によって残高を急減させたヘッジファンドであるが、ここにきて再び存在感を強めている。ヘッジファンドの残高については正確な統計がないが、直近の残高は2 0 0 兆円を大きく上回り、過去最高を更新しているようだ。世界的な金融緩和によって市場には資金が溢れているが、規制緩和、IT技術の進歩によって金融手法が高度化、複雑化し、一般投資家が自ら運用しても成績が上げにくい環境になっ
ているため、ヘッジファンドのようなプロ集団に資金は集まりやすくなっている。

 ヘッジファンドによる運用対象は、株式、債券、商品など多岐にわたり、取引は現物取引とデリバティブ取引があり、これらを組合せた投資手法は無数にのぼっている。ヘッジファンドが行う投資戦略の代表格は、株式の買いと売りを組み合わせる「株式ロング・ショート」や、企業の合併・買収など大きなイベントが発生することを予想してポジションを取る「イベント・ドリブン」などがあるが、最近の金融市場で存在感が極めて大きくなってきているヘッジファンドの一種に、CTA(コモディティー・トレーディング・アドバイザー = 商品取引顧問業者)がある。CTAによる運用は、昨年には推計でヘッジファンド全体の1割以上を占め、2 0 兆円を超えて過去最高の残高になっているようだ。

 CTAの運用の特徴は、現物取引を一切行わず、先物とオプションに特化した取引を行うことにある。そして取引の大半は、予め金融工学を駆使してセットしたプログラムに基づきコンピューターが自動的に行うため、高速かつ激しい売買が繰り返される。CTAで働く社員は、経済や金融に詳しい文系出身者よりも、数学や統計学に詳しい理系出身者が多いとも言われている。CTAがコンピューターにセットする投資プログラムの内容は正に機密事項であるが、経済のファンダメンタルズとは無関係に、相場のテクニカルな動きを重視したものが大半であると言われている。代表的なプログラムは「トレンドフォロー」と呼ばれ、相場の上昇や下落のトレンドに乗って売買残高を積み上げていく手法である。多くのCTAが同様の手法で取引を行うため、一旦相場の流れができると一方通行になりやすく、値動きは螺旋階段を昇降するように増幅されてしまう場合が多い。

 更には先物市場が大きく変動すると、先物取引と現物取引の価格差を利用する「裁定取引」が誘発されて、現物市場の値動きが増幅される。最近の日本の株式市場の一日の変動幅が大きいのも、こうした一連の取引が影響していると推測されている。CTAの存在は金融市場全体に大きな影響を与えており、その動向には十分留意が必要である。

今後の見通し

 期待先行との声がある現在の円安、株高、金利低下であるが、市場はもともと期待に基づき動くものである。取引においては必ず買いと売りが存在し、自分が予想する将来の期待値に比べて現在の実勢値が低ければ買い、高ければ売る。投資家によって期待値が異なるため、売買が成立するのである。従って市場参加者の期待値が上がらなければ、相場は上昇しない。市場に期待させたことが「空手形」に終われば大きな反動が来るし、新たな期待を抱かせていかないと相場は持続しない。

 現在の市場は、「2年を目途とした2%の物価上昇」が前提となっている。4月に実施された日銀の金融緩和は、脱デフレに対する期待値を一気に上昇させたが、金融政策だけでは脱デフレは難しいと市場は見ている。今後具体化してくる政府による「成長戦略」が、将来の日本経済に対して更なる期待を連想させることができなければ、相場の寿命は到来してしまう。

投稿者:静岡経済研究所スタッフ|投稿日:2013/05/01|

ページの先頭へ

入会お申し込み・資料請求について 入会および維持会員への切り換えなどに関するご照会・お問い合せは、総務部会員担当までご連絡ください。
また、入会資料の送付をご希望される方は、入会お申し込み・資料請求フォームよりお申し込みください。電話番号 054-250-8750 E-mail info@po.seri.or.jp 受付時間 9:00から17:00 祝日 土・日・祝除く入会お申し込み資料請求フォーム

  • 維持会員専用サイト

カテゴリー

最近の投稿

月別

  • サービス案内
  • 財団法人 静岡経済研究所 書籍のご案内
  • 静岡経済がわかるリンク集
  • 静岡県内事業者一覧
  • 研究社員紹介
  • マーケットプラザ