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企画グループ長 玉置 実 のコラム

  • 企画グループ長 玉置 実
  • No.105

サテライトオフィスの先進地 小さな町が示唆するもの

昨年、サテライトオフィス誘致の先進地である徳島県を訪問する機会があった。訪問先は、徳島県中部の山間部に位置する神かみやま山町と、南部の海岸部に位置する美み 波なみ町。ともに自然豊かで、人口は5?6千人台、産業は農林業や水産業といった一次産業が中心である。神山町は2010年にクラウドで名刺管理のサービスを提供するSansan?がサテライトオフィスを開設したこと、美波町は地方創生に取り組む自治体のサポートで活躍している?あわえが有名である。

徳島県は、2019年度末のサテライトオフィス開設数が67件と、全国2位の実績を誇る。神山町はITやデザイン関連など14 社、美波町はITや建築設計関連を中心に20 社が進出するなど、同県を代表する集積地となっている。

2町が先進地となった要因として、徳島県による先駆的なブロードバンドの環境整備、同県の充実した補助金制度などが挙げられているが、現地の説明では、次の3点が印象に残った。

1点目は、進出企業と受入地域との調整役の重要性である。田舎に拠点を構える企業やそこで働く従業員は、自然環境での暮らしや地域との交流を望む。一方、受入れ側は、移住者に距離を置きがちである。そうした課題に対して、神山町では、地元のNPO法人グリーンバレーが、空き家を利用した住まい情報や地元との交流の場を提供することで地域との距離を縮めている。美波町では、前述の?あわえの吉田基晴社長が地元出身であることから、その人脈を生かすことで、従業員やその家族がお祭りなどの町内活動に参加しやすくしている。

2点目は、企業誘致にとどまらず、企業にとって魅力的な地域となるための新たな仕掛けを講じていることである。神山町では、2010 年、起業や創業を志す人を対象とした滞在型職業訓練の場「神山塾」を開始、これまでに多くの起業家を輩出している。多様な人材がいる点に魅力を感じて移住者が増える好循環につなげている。美波町では、?あわえが蓄積した地域活性化のノウハウをパッケージ化し、自治体の地方創生をサポートするビジネスを強化しており、地域課題解決をビジネスの一つとしている企業にとって、新たな事業の種を得る場となっている。

3点目は、働く側の意識の変化である。現地で働く30 代社員に、地方勤務を希望する人の特徴を尋ねたところ、「人生の優先順位が明確。大事なのは個人の嗜し 好こうに合った場所を選べ、暮らせること。サーフィンができるから当地を選ぶ人もいる」と答えてくれた。同地に拠点を持つ経営者からも同様の趣旨の回答が返ってきた。以前も地方を選ぶ人はいたが、最近、働き方より生き方を優先する人が若者中心に着実に増えているようだ。

コロナ禍で盛り上がった3密回避ニーズを地方が取り込むには、これまで以上に進出事業者の狙いや従業員の気持ちを理解することが必要になっている。

投稿者:企画グループ長 玉置 実|投稿日:2021年06月30日|

  • 企画グループ長 玉置 実
  • No.98

デジタル革命の波と地域づくり

昨年、自動運転技術やMaaS(Mobility as a Service)など最先端のITを使うことで、地域の課題解決につなげようとする全国の実証実験を視察する機会に恵まれた。たとえば仙台市では、ドローンを活用して津波からの迅速な避難につなげようとしており、愛知県豊田市や春日井市では、買い物弱者や環境対策のために自動運転技術を活用しようと取組みを進めている。また、京都府では、最新の観光情報をデジタルサイネージによって提供することで観光客の周遊性向上を図るなど、その対象は多岐に渡る。
静岡県内でも、今年1月にはトヨタ自動車?が、あらゆるモノやサービスがつながる実証都市「コネクティッド・シティ」を裾野市に整備するプロジェクトを発表したほか、地元の鉄道会社がAI(人工知能)を使った相乗りタクシーの実証実験を行うなど、さまざまな事業が展開されている。
こうした取組みを見て、まず感じたことは、実際に生活の中で活用するためには、しばらく時間が掛かるという点である。まだ技術面での課題が多いことが最大の要因であるが、加えて、生活者目線の実験が十分にできていないといえる。たとえば、自動運転の目的の一つは、移動手段が制約される住民の買い物や、通勤・通学、通院といったニーズを満たすことであるが、そうした点を前提としたデータの取得やニーズの把握が進んでいない。さらに、データの取得は今後進むだろうが、それを人々の生活パターンと組み合わせなければ、実際の活用は難しい。
さらに、実験成果を全国的に展開する"横"の連携も今後の課題だろう。仙台市では、大地震が発生すると沿岸部に設置されたドローンが自動的に飛び立ち、津波の発生状況を防災拠点に映像で伝えるとともに、遠隔操作によって、海岸にいる人達に避難を呼びかけるシステムづくりを目指している。技術的には比較的早く実現すると感じる一方で、海岸線は行政区によって区切られているわけではなく、避難など防災に関する情報の隣市町との共有を図っていかなければ、せっかく確立した仕組みを生かせない。
実証実験を積極的に推進する国も、総務省、内閣府、経済産業省、国土交通省など省庁ごとの縦割りが目立つ。また、事業の実施主体である地方自治体でも、一部署だけで推進しているところが多く、今後はさらなる活用に向けて他部署との連携が欠かせない。
今年に入り、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、リモートワークやオンライン診療、遠隔教育システムなど、デジタル技術の活用が注目され始めている。こうした環境が激変する中においては、技術の急速な進歩とともに、社会や人々の価値観、生活パターンが大きく変わる可能性が高い。人口減少や高齢化など地域の課題解決は待ったなしの状況だけに、今回の出来事をきっかけに、ITを活用した地域課題解決に向けた取組みのスピードアップが図られることを期待したい。

投稿者:企画グループ長 玉置 実|投稿日:2020年12月07日|

  • 企画グループ長 玉置 実
  • No.94

県境の市町ならではの苦労

6月号の特集「中部横断自動車道の開通効果を考える」で、開通によってさまざまな影響を受ける静岡市、富士宮市、山梨県の南部町、身延町を取材した。この四つの自治体は、他県に隣接する、いわゆる「県境の市町」である。
これまでも神奈川県と山梨県に接する小山町や、愛知県と接する湖西市を訪問することがあったが、静岡県の施策の一環としてのヒアリングやグローバル企業への取材が多かったことから、隣県との関係性に着目する機会は少なかった。今回の取材を通じて、県境に接する自治体には、立地ならではの苦労が多いことに気づいた。
まず、生活面である。県境の自治体の生活圏や経済圏は、同一県内で完結することは少なく、他県にまたがることが多い。南部町では、"本格的"な買い物の場合、静岡市内の大型小売店を利用することが多い。また、静岡市内や富士宮市内の職場、高等学校に通勤・通学するケースも珍しくない。一方、新聞やテレビは、県境で分かれており、県外の職場や学校周辺の情報が十分に入手できないケースがあるという。
行政活動にも影響がある。新制度や新事業が導入される場合、国の説明会は、県単位で開催されることが多い。細かい運用が自治体に任されている場合は、近隣市町の担当者が情報交換してから実施することになるが、県境の自治体の場合は、同一県内だけでなく隣県の市町とも調整をしなければならない。ある自治体では、他県の会議にオブザーバーとして参加し、情報を得ているという。
また、企業活動はどうか。たとえば小山町は、工業団地や物流団地造成など活発に地域開発が進められており、立地する企業にとって、労働力確保は最大の課題である。しかし、隣接する神奈川県の最低賃金は983円と静岡県の858円と比べて125円も高く、小山町で人手を確保するためには、神奈川県の賃金水準並みの待遇が最低でも求められる。町内に立地する企業は、コスト負担が増している。
県境の自治体の多くは山間部に位置する。都市部と比べ人口減少が激しく、厳しい状況に置かれている。一方、県全体の活力維持には、これまで以上に県境を超えた交流が大切になってきている。
昨年、南部町では、中部横断自動車道の開通に合わせて整備した「道の駅なんぶ」に、防災倉庫を併設した。有事の際、相互の県に緊急物資を配送する物流拠点として活用するためである。他県の取組みながら、防災体制の充実は、静岡県として心強く有難い活動でもある。
県外とのゲートウェイとなる県境の自治体の魅力が増せば、県全体の吸引力や魅力もさらに増すこととなる。県境の自治体のあり方に、目を向ける時期が来ている。

投稿者:企画グループ長 玉置 実|投稿日:2019年07月01日|

  • 企画グループ長 玉置 実
  • No.87

大切にしたい、全国1位の防災意識の高さ

昨年、首都圏や関西圏、さらには長野県や山梨県で開催されたイベントに静岡県とともに参加し、本県が防災先進県であることをPRする機会を得た。イベントに出展した狙いの1つは、静岡県に対する地震・津波イメージの払拭と、これまでの防災対策を知ってもらうことにある。来場した企業関係者や家族連れ、学生、高齢者などさまざまな年代や職業の方々に、地震・津波対策を中心に静岡県の防災への取組みを説明した。
具体的な数字を提示するほうが理解してもらいやすいことから、木造住宅耐震補強工事への助成実績「20,657戸」が全国1位であることや、学校・幼稚園施設の耐震化率「99.6%」が全国2位であることなど、データを使って説明した。
なかでも、来場者が最も興味関心を持った数字が、各県でも実施されている震災総合訓練の県民参加率「31.8%」である。防災訓練に参加するのが習慣になっている静岡県民からみれば、決して高い数字ではないと感じるかもしれないが、全国平均の4.0%からみれば、際立って高いレベルである。
実際、来場者からは、「自分の住んでいる地域では地震があまり起こらないので、防災訓練があっても参加しない」などの声が多く聞かれた。そもそも、生活の中に防災訓練が根づいていないようであった。
静岡県民や県内企業の地震・津波対策に対する意識の高さは、昭和50年代前半の東海地震対策から始まった長年の取組みの成果と言える。小・中学校時代の防災訓練の経験は、大人になっても忘れない。
ちなみに、平成28 年の「社会基本生活調査」(総務省)によれば、静岡県民がボランティア活動で「安全な生活のための活動」を行う割合は、「8.9%」で全国1位である(全国平均5.0%)。同活動には、防災だけでなく防犯や交通安全運動なども含まれるが、防災意識の高さが数字を押し上げている要因であることは想像に難くない。
こうした防災に対する意識の高さは、企業の事業活動にも影響を与える。最近は、集中豪雨や大型台風の襲来により、河川の氾濫や土砂崩れが発生するケースが増えている。これまで静岡県内では他県と比較して大きな被害事例は少ないものの、今後は対応を迫られる可能性が高い。こうした中、一級河川の近隣に立地する企業を対象に、河川を管理する国の機関のスタッフを講師として招き、洪水対策をテーマとして説明会を開催した経済団体もある。しかも、多くの人が大雨に対する危機意識を持つようになった現在の3年前に開催されていた。
防潮堤や耐震補強工事などのハード整備とは異なり、"防災に対する意識の高さ"は、目に見えるものではない。そのため、なかなか成果を実感し難いが、命を守る上では最も重要である。静岡県に住んでいる"良さ"を認識し、さらに伸ばしていくことが大切である。

投稿者:企画グループ長 玉置 実|投稿日:2018年10月01日|

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