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- 常務理事 高橋節郎
- No.0235
知っておきたい「日本人のしきたり」
私が銀行員時代に海外へ赴任して一番困ったのは、日本人でありながら日本のことをよく知らなかったことである。多くの人は、海外に行くことが決まると、その国の地理や風土、習慣などを予め調べようとする。それ自体は結構なことであるが、その地に相当期間滞在し、現地の人々と深く接するような機会がある場合は、必ずしも正しいとはいえない。というのは、これから渡航する先の事情については、その地に着いてから見たり聞いたりすることでいくらでも理解を深められるが、日本の伝統や習慣を外国人に説明するに際しては、ある程度の知識がないと会話が進まない。また、インターネットが現在ほど普及していなかった当時、海外で正確な日本情報を入手するのに結構苦労した経験をした。特に、神社と仏閣との違いや、日本人の宗教心など、もともと自分の理解が不正確なテーマが話題にのぼったときにはお手上げであった。
ところで、最近のベストセラーで、「日本人のしきたり」((飯倉晴武士氏編著、青春新書)という本がある。この本は、日本の年中行事、冠婚葬祭、縁起、祝い事、手紙の書き方などを満遍なく網羅したものであり、全般的な日本のしきたりを理解する上で大変参考になる。この本は、初版が平成15年1月であるにもかかわらず、いまだにベストセラーを続けており、私に限らず、いかに日本人が日本の伝統文化に興味があるか(あるいは知らないか)を物語るものであろう。こうした伝統文化に対する関心が高まっている背景としては、やはり最近のベストセラーである「国家の品格」(藤原正彦著、新潮新書)にもみられるように、日本人としての拠り所を求めたいという回帰志向の流れにタイミングが合ったことがあげられよう。
加えて、戦後長きにわたり進展してきた核家族化の影響も大きいものと思われる。筆者が幼い頃は、家庭は子供、両親、祖父母の3世代が一緒に住むのが普通であった。そして、門松やしめ飾りなどの正月行事や、お彼岸やお盆、端午の節句というようなしきたりや慣習は、両親というよりも、祖父母から教えられた。しかしながら、核家族化の進展は、こうした世代を超えた触れ合いを極端に減少させた。また、昨今では、家族の生活時間帯がひとりひとり異なる上、携帯電話やパソコンの普及などから、親子が接する機会も少なくなっている。ましてや「日本人のしきたり」などといった硬い内容について、家族間で話すことはきわめてまれである。こうして育った子供の世代がやがて大人になった暁には、その子供達との会話は今よりさらに減り、伝統文化の継承は、ますます難しくなっていくであろう。このように考えると、日本人全体が、日本の伝統文化やしきたりに対する理解は大変希薄になってきており、日本人としてのアイデンティティが失われてしまうのではないかという恐れが、この本に対して多くの人々が関心を寄せた理由ともいえよう。
冒頭の話題に戻れば、海外で円滑なコミュニケーションを図っていくためには、相手との相違を認め、自分の拠って立つ所をはっきりさせた上で、相手に自分の意思を伝えることが重要であり、単に相手に迎合するだけでは尊敬されない。そのためには、日本人として、日本の伝統文化やしきたり、ひいてはその背景にある思想などを知っておくことが大変重要である。
投稿者:常務理事 高橋節郎|投稿日:2007年07月02日|
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